農業者や6次化事業者にとって、ターゲットとなるお客さんはどうやって設定したらよいのでしょうか?
今まで農協にだけ卸していた事業者が、新たな販路を開拓する場合、誰に対して売っていくのかしっかり考えなければなりません。
展示会に出展する場合、事前に商談シート(一般的にFCPと呼ばれるシート)を提出する必要があります。作成したことのある人はイメージつくと思いますが、要するにバイヤーさんとコミュニケーションをとるための資料です。
昔は生産者が個別に作成していたのですが、それだと抜け漏れが多く、バイヤーさんが欲しい情報が足りないことがあります。両者のコミュニケーションを円滑にするため、FCPシートという共通フォーマットが作られました。
このFCPシートの活用については、長野県はとても進んでいます。書き方セミナーも頻繁に開催されており、僕もこのセミナーで最初は学びました。(まだ受講したことのない方はおススメです。)
ターゲット顧客設定のよくある間違い
このシートにはターゲット顧客を書く欄があります。売り先やお客様属性(性別、年齢層など)を書き込みます。FCPシートに記入しながら、初めてターゲット顧客とやらを考えた人も多いはず。
長野県ではほとんど見なくなりましたが、他県ではいまだに「どなたでも美味しく召し上がれます」と書いている生産者がいます。ひどい場合は空欄のケースもあります。これではその商品が一体誰に食べてほしいのか全く分かりません。本当に真剣に売る気があるのかと思ってしまいますが、事実こういうケースがあるのです。
最近よくみるターゲット顧客が、「30~60代の健康に気をつかっている女性」といった記載です。性別、年齢層、健康といった切り口である程度、的が絞られています。
でも実はこれでも全く足りないのです。FCPシート記載枠には限りがあるので、そんなに書き込めないかもしれません。でも実際の営業現場で使うためには、もっともっと詳細に設定する必要があります。
たった一人に絞り込む
年齢、性別、家族構成、居住地域、仕事、年収、考え方、性格、外見的特徴、興味のあること、悩んでいること、趣味、よく食べるもの、など・・・、ターゲット顧客を一人のレベルに絞り込むのが正解です。場合によっては、お客さんに名前を付けてしまってもよいでしょう。あなたのお客さんの中で、一番優良で今後も取引を続けていきたいお客さんの名前をつけましょう。
営業するときは、その一人に商品を買ってもらって、満足いただくためには何をすれば良いか考えます。逆の表現をすると、その一人を満足させることができないのであれば、他のお客さんも満足させることができないのです。
とくに大切なのがお客さんがもっている価値観です。年代よりも価値観の方が重要です。お客さんは価値観でモノを買います。
ターゲット顧客を一人に絞ると・・・
展示会でのPRポイント、商品ラベル、営業上のメッセージなどに一貫性が出てきます。新しく商品を作る場合も、その一人のために作るのです。
社内で議論が分かれたときも、そのターゲット顧客なら何を欲しいと思うかを考えます。あなたの進む方向性に一貫性が出てくると、お客さんから見て信頼感につながります。
ターゲットが明確でないと、その場その場で対応がまちまちになってしまいます。八方美人で調子の良いことを言っていると、お客さんからの信頼を失っていきます。
僕もブドウ農家で営業をやっていたときは、実はお客さんを一人に絞り込んでいました。マルシェで販売するときは、それに一致する人に徹底的に声を掛けました。DMを書くときも、その人宛ての(ほぼ)個人レターを書いていました。
お客さんの気持ちになってみる
ターゲット顧客の好きな雑誌は、「婦人画報」であると設定していたので、お客さんの気持ちを理解するため、僕も婦人画報を読んでいました。(ちなみに自分で買うのは恥ずかしかったので、妻に図書館から借りてきてもらっていました。苦笑;)
このようにターゲット顧客を設定をしている農業者を、ぼくは見たことがありません。だからこれをやるだけでも、営業力が格段にアップします。農業業界の中では抜きんでた存在になることができます。実際、ブドウ農家で働いていた僕がそうでしたから。
あなたは、誰に対して商品を販売していますか?
八方美人になっていませんよね??
この記事を書いた人

- Innova Market Insights社の日本カントリーマネージャー。世界の最新トレンドとマーケティングに精通しており、食品企業の商品開発やマーケティング活動を支援している。自身もかつては食品企業で、苦労しながら商品開発と販売をしていた経験あり。 日本と世界をつなぐ架け橋となり、食品企業のレベル向上に貢献することがミッション。 海外での講演活動にも精力的に取り組む。
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