弱者の戦略(展示会編)

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「お金がかかるので展示会出展にもう人は割けない。お前ひとりで対応しろ。」

先日、東京ビッグサイトで開催された、業務用の食の展示会「FABEX(ファベックス)」へ行ってきました。展示ブースを回りながら、前職時代にブドウ農園から言われた一言を、ふと思い出しました。

多くのブースで、試食を振る舞っていました。肉や野菜や揚げ物など、申し訳ないですが、たくさん食べせて頂きました。みなさん、数人体制で臨んでいるブースばかりでした。小規模事業者さんでも、少なくとも2~3人体制です。

僕がぶどう農園で働いていたときも、昔は数人体制で展示会へのぞんでいました。行政や主催者からも、バイヤーさんを逃さないように、数人体制で臨んでくださいと言われます。ぶどう農園の場合は、そもそも社員数が少ないので、展示会のときはパートさんを雇っていました。

会社でコスト削減の取り組みが本格化したとき、社長から言われたのが冒頭の言葉です。
それから僕は全ての展示商談会を、一人でこなすことになりました。

想像してみてください。展示商談会に一人で臨むと、まずトイレにいけません。昼食もまともに食べられません。一人のバイヤーさんを対応している間に、他のバイヤーさんを逃します。試食を勧めないといけないし、試食補充もしないといけません。パンフレットも配らないといけません。一人で回すのは限界があります。必然的に成約率も落ちていく・・・

と、当初は思っていました。

ところが実際は、一人で出展するようになってから、成約率が一気にアップしたのです。なぜでしょうか?トライ&エラーを通して分かった、僕なりの弱者の戦略をご紹介しましょう。

バイヤーさんを、割り切って逃します。

ポップはしっかり目に入るようにしておきます。パンフレットもセルフで持っていけるようにしておきます。でもブースには僕一人しかいないので、僕が他の人を対応していた場合、バイヤーさんはまた時間をおいて戻ってこないといけなくなります。

大半のバイヤーさんは、もう戻ってきません。一般的に逃してしまったという状態です。

しかし、一通り回った後に、再び僕のブースに足を運んでくれるバイヤーさんもいます。わざわざ戻ってきてくれるのです。なぜ戻ってきたのでしょうか?うちの商品に本当に関心があるからです。取引を本気で検討しているからです。

僕は密かにこれを“ふるい”として位置付けていました(バイヤーさん、ごめんなさい!)。スタッフ数人で、全てのバイヤーさんを対応してしまうと、この”ふるい機能”は働きません。

一人のバイヤーさんとじっくり話します。

戻ってきてくれたバイヤーさんとは、じっくり話しをします。成約率の高いバイヤーさんだからです。高い信頼関係を築けるチャンスがあるからです。話すと言っても、自社商品の簡単な説明をしたあとは、バイヤーさんのことを聞きます。接近戦です。

「御社ではどのような商品を扱っていますか?」(全体像の把握)
「御社はどのようなお客様をターゲットにしていますか?」(顧客層の把握)
「御社で私どもの商品を取り扱うとしたら、味、ロット、パッケージなど、どのような課題がありますか?」(課題の把握)

これを一人でこなすことにはメリットがあります。話しをしたバイヤーさんのことをしっかり把握できるのです。

スタッフ複数人の”万全の体制”で対応すると、他の人が書いたメモ書きを後から見ても何のことが分からないことが良くあります。書いたスタッフ本人に聞いても「さー、なんだったけ?」なんてことも往々にしてあります。いわゆる、「仕事が散らかる」というやつです。

展示会後、特定のバイヤーさんにだけフォローアップします。

名刺交換した200人を平等にフォローアップするなんてことはしません。すでに誰が自社商品に本当に関心を持ってくれているのか分かっているからです。展示会後に集中的にフォローアップするバイヤーさんが分かっているからです。

ブースでバイヤーさんからヒヤリングした課題をベースに、こちらから提案を出していきます。名刺が手元に100枚あったとしても、フォローアップするのは10人程度という場合もありました。

結果として・・・

バイヤーさんとの信頼関係がアップします。特定のバイヤーさんとのコミュニケーション量が増えるからです。相手が望むことをしっかり考えることができるので、満足度もアップします。弱者の戦略は、自分のためであり、相手のためでもあるのです。

いかがですか?

もしあなたが、弱小な小規模農家で、一人で展示会対応をする場合、ふてくされてはいけません。一人だからこそ成果を発揮する接近戦をのぞんでください。

バイヤーさんを割り切って逃すのは、少し勇気がいるかもしれません。僕の場合は、最初は追い込まれてこのやり方をやりました。そうすると、面白いように成約できるようになりました。

お試しあれ!

この記事を書いた人

田中良介
田中良介
Innova Market Insights社の日本カントリーマネージャー。世界の最新トレンドとマーケティングに精通しており、食品企業の商品開発やマーケティング活動を支援している。自身もかつては食品企業で、苦労しながら商品開発と販売をしていた経験あり。 日本と世界をつなぐ架け橋となり、食品企業のレベル向上に貢献することがミッション。 海外での講演活動にも精力的に取り組む。
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