最近、市町村役場に農産物マーケティング関係部署が設置されるようになりました。行政が地域の農業を支援する一環で、販売や消費拡大にも積極的に関わるようになってきたものと思います。
そこで、地域内の6次産業化と地産地消を併せ、「域内循環の流れ」を作ろうとする取組み事例が目につくようになりました。
そこで、私の関わる長野県上田市の事例を紹介し、ここでいくつか思うところを述べます。
上田市の米生産者団体が地産地消の思いから、酒蔵の協力を得て純米酒をつくり、地元のお寺の言い伝えから「奏龍(なきりゅう)」と命名し、このキレのある特別純米酒は評判となっています(私も飲みましたが、納得です!)。普通はここで一区切りですが、この「奏龍」は違った展開を見せます。
それは・・・
この地産地消の思いから生まれた日本酒に共鳴したのが、江戸時代からの地元の味噌醸造店主。地産地消の同じ思いで大豆の生産を依頼し、「奏龍味噌」が生まれました。
この味噌を使って地元を盛り上げようというラーメン等を扱う飲食店及び菓子店が徐々に広がり、生産者・醸造者・飲食・菓子店主が「信州上田奏龍の会」を作り、毎月集まり懇親会で意見交換しています。会員も増加しているとのこと。
私はここで、3つの事が重要と思います。
3つとは・・・
一つ目は、「地域の共通ブランドは生産者から」です。
酒米を作り「奏龍」と命名した生産者が、今度は大豆を作り「奏龍味噌」と名付け、地域の他の加工品に広げていこう、地域のブランドとして育て活性化につなようという事例として貴重です。
二つ目は、「そのブランドを面的展開へ」です。
2次の加工製造者が味噌を作り、その売り先の飲食店をつなげてネットワークを作るのは、容易ではありません。お互い競争相手でもあるからです。
しかし、田舎で共通のラーメン店や菓子店がネットワーク化すれば、食べ比べでき、多ければ多いほどお客は満足します。「ネットワークの経済性」ですね。今年は真田丸ブーム、県外客も訪れるとのこと。
三つ目は、「周りが肝心」です。
自治体が主導するブランド作りの場合、多くが陥る罠(特に合併した自治体)があります。
その罠とは・・・
主要駅のある商店街を中心に事業展開を考えてしまうことです。市街地中心に会を作った場合の方がメリットが大きいと多くの人は思うでしょう。多くの人通りがあるので、規模の経済が活かせるし、行列のできる店が出るかもしれません。コンサルタントならまずそういう展開をアドバイスするでしょう。
しかし、マイナスも考えられます。
賃料が高いので短期的利益を追求することから出店閉店が激しく、ブームが去れば一気にしぼんでしまいます。または、他の店には注目が集まらず、市街地全体ではマイナスになることも十分あり得ます。
一方、この会は、人的なつながりのある地元の店主がネットワークを組んでおり、市街地商店街の店は少ないのです。市街地を囲むような店のつながりで、車での来店です。あえて、じっくりゆっくり地元産の良さを説明しての売り方は、昔ながらの手作りの周辺の店でしょう。
ここでの学びは、
地域のブランドとは、その土地の人たちの気持ちを鼓舞するもので ⇒ 舞土地(ぶ・ランド)です。
地産地消(特にラーメン中心)で盛り上げるには ⇒ 面=麺で攻めます。
立地よりも、熱く日々闘いながら仕事をする人たちのつながりが重要で ⇒「熱闘ワーク(仕事)」です。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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