マーケティングでの「捨てる効用」とは

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7月初旬に、縁あって、上田市で開催された日本デザイン学会研究発表大会のパネリストとして参加しました。そこで感じたことを記します。

私が参加したのは、テーマ「農業デザインのすゝめ」というセッションです。2時間前に司会役のU教授とパネラーが打ち合わせをしたのですが、思わぬ事態が生じました。それは・・・

事前には、自ら発表する内容を概要集に掲載することになっており、私は県職時代に担当した「長野県産農畜産物の統一ブランド創設についてーその設計と展開ー」と題して原稿を送ってあり、それについてディスカッションするというものでした。しかし、担当のU教授は、「パワーポイントで説明した方が聴衆はわかり易い」と突然さりげなく言われ、準備をしてない私は(ほとんどがそうです)、はたと困りました。

この逆境で、その日に限って、今まで講演で使っていたUBSメモリーが小さな黒色の筆箱にあるのを見つけ、パット表情が明るくなる自分がわかりました。しかし次の問題が待ち受けていました。普段は1時間30分用のパワーポイントを使うのですが、当日は、15分間で説明してほしいとのこと。25分用のパワーポイントが1つあるのを確認しましたが、開始まで時間がない中、25分を15分に短縮するには、40%をカット(捨てる)しなければなりません。

そこで私が普段から言い続けているマーケティング思考を普段の生活に使う発想」の出番です。私のパワーポイントによる説明のターゲットを明確にするとです。誰に聞いてもらうのか、誰にウケたいのか(ここを異常に気にする私です)をはっきりさせること。当日の予想される参加者は、県内外学会関係者、地元開催大学関係者、一般市民等ですが、その中でメインターゲットは・・・

「他県の大学関係者」にしました。そして、時間帯が16時30分~18時なので、参加者はお疲れモードという環境(集中力は薄れているであろう、という仮説です)も考えあわせると、大胆にもパワーポイントで説明する目的を次のように設定し直したのです。

それは・・・「会場で聞いている大学の先生に楽しんでもらい、幸せな時間を提供する」です。大至急、いかに簡潔に長野県農産物等を紹介し笑いを取るか、の視点から大きくカットしギリギリ間に合いました。今、書いてて、我ながら田舎のさもない人間がよくチャレンジしたと自分の無謀さに恥じ入るのみです、もとえ。

討論会2

進行中、司会のU教授からさらに10分に短縮してほしいとの声。すこしカットなりました(カットは短縮の意ではなく、もちろん沸き起こるエモーショナルな思いです)。
私は、こんな感じで話しました(と思うのですが。その一部です)。

「私は、この3月末まで、長野県農政部農産物マーケティング室企画幹として、県産農畜産物の統一ブランド「おいしい信州ふーど(風土)」を策定し、推進してきました。その紹介を、10分というチョー短い時間で話しますので、ここは信州ですが、思い切り都バス(飛ばす)でいきます(年齢的におやじギャグが通じるとの判断でしたが、的確で、笑い発生)」

統一ブランドは、3つのプレミアム・オリジナル・ヘリテイジのカテゴリーで括り発信していることを、都バスのスピードで説明し、「長野県で生産される全国上位品目のうち、いくら食べても太らない野菜は何でしょう、せっかくなので皆様だけに小声で教えます」「それは・・・レタスです。なぜなら、0+(音読み)だから、体重が増えない!」。ここで爆笑発生(思っていた以上で恐縮です)。

以下、なぜ長野県の食べ物は美味しいのか説明し(これも評判が良かったので、どこかで記します)10分で終了。(文字にすると、面白くもなんともないですね、私の力量不足です、ハイ)。

後の懇親会では、このバカバカしい私の話でいろいろな先生方と盛り上がりました。
私の講演は、こんな感じで、5分に1回は笑いを取るのをモットーにしています。ポイントはよく通るこの美声です(紙面上では説得力がありません・・・涙)。どなたか呼んでくだされば実証できるのですが・・・(笑)。

ここで感じたことは・・・
今回は、強制的に、パワーポイントをカットする(捨てる)必要性が生じ、必死にマーケティング思考で取り組みました。ターゲットを設定し、同時に目的も練り直し、いかに印象的に訴えるかです。しかしこれには前提があります。1時間30分用のネタを持っている中で、顧客のニーズ(相手の要望)にフィットするためのカットなのです。これ以上捨てられないところまでいって初めて、自分は誰に何を売っているのかが見えてきます。この機会がなければ、たぶん捨てる効用を考えることは無かったと思います。U教授に感謝です!

これは農産物のマーケティングにも当てはまります

商品のストーリー作りが重要といわれますが、独りよがりの思い付きをだらだら書いても全くバイヤーや消費者に響きません。膨らませた上でカットしていき、より印象的な言葉に置き換えていく(スリム化していく)過程が不可欠です(私はよくいろいろな人たちと飲む機会があり、ディスカッションする中からいろいろなアイデア・ヒントを得ています)。
自分の売りたいものは、誰にどういうシーンで使ってもらえば喜ばれるのかそのためには普段から何をすればいいのか。前々回に書いたプロデューサー(生産者)としての自覚です(私のブログ「プロデューサーということば」参照)。

ここでの学びは、
マーケティングで重要なのは、絶えずターゲットを意識し、「本当に売るものは何か」を見出すことであり、それは「何を売らないか」をはっきりさせていくことでもあります
いろいろあるものを捨てていく「捨てることによるストーリー化」で、顧客にジャストミートしていくことが求められています。それには、覚悟とプラス発想が必要です。
⇒そう、「てる」は「う」よりプラスの行為だからです。舎は、合に+の画を加えて成り立っています。

※私のショートカットしたストーリーは、下記写真の通り。一言ズバリ、”スッキリ”です。
たまたま今日、床屋に行ってきたので、載せたい誘惑に勝てませんでした。
ご寛容を(笑い)。

私のカット2

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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