全国の直売所数は23,560(2012年)で、セブンイレブン店舗数18,613(2011年)を上回っており、長野県でも直売所459は、セブンイレブン440を上回っています。当然、直売所は競争激化の中にあり、経営力アップが改めて問われています。
最近、県内有力直売所を訪ねる機会があり、そこで責任者から聞かせていただいた内容は、私の予想と大きく異なるものでした。
私の予想は、「生産者やスタッフをきちんと管理・教育し、合理的な経営で利益を上げている」というものでした。
しかし、その責任者は違うことを話されました。その内容とは・・・
以下、大きく2点につき紹介します。
生産者が自ら考えてやるほうがうまくいく
実は、責任者はあまり指導していない、また生産者は商品を自由に出しているとのこと。意外でしょう。そのわけは・・・
生産者が自ら考えてやるほうがうまくいくと気づいたから。2つの事例をあげます。
「ズッキーニ1本売り」の事例
ある生産者が自ら考えたことで、私(責任者)なら効率的に売りたいので、同じサイズの何本かを袋に入れて売るが、そうしません。その生産者が言うには、買う人は少量を美味しく食べたい。そのズッキーニが美味しいかは料理してみて初めてわかる。だから、まずは1本で食べてもらい、美味しければリピートするはず。こちらは毎日売れ行きを見ているので、良ければ2~3本にして出すとのこと。万一口に合わなければ、生ゴミとして厄介な存在に変わってしまうから、それはしたくない。これはまさしく生産者と顧客との対話(実際に話さなくても)により思い至ったことです。ターゲットは毎日来店する顧客です。
「梅の入ったゆるゆるの袋」の事例
漬物用の梅をゆるゆるに入れている袋がありました。責任者の私ならしっかり詰めて、ボリューム感を出し、割安感のある値段設定にするほうが顧客は満足すると考えますが、この生産者はそうしません。なぜか。
それは・・・
顧客が一つ一つの梅の品質を確認しやすくするためで、後で袋から出した瞬間に一つでも傷ついていたら、嫌な思いをするだろうから。これも顧客との対話により相手を思う心から生まれたストーリーです。
この2つの事例を考えてみますと、お客さは何に満足するか、不満に思うのかは人それぞれ違うということです。生産者は直売所に商品を出す時、何らかの「顧客満足ストーリー」を描いており、そこで売れている商品は何か、自分のストーリーでいいのかを、お互いに探りあっていると思います。責任者が自分の考えで一定の制約をかけると、売れなかった場合、自分の考えのほうが正しかったという思いに駆られてしまい、不協和音、そして悪いのはだれかといった批判になります。(別の有力直売所生産者たちが視察に来られ、この説明をしたら羨ましがられたとのこと)
それより、自己責任で考え、結果は自らがとる。直売所で顧客は何を買うか、を顧客との対話から見出していくという顧客志向=マーケットインです。
職員にマニュアルはない
この直売時は、最初、売り場にスーパー経験者が多く、それぞれのスーパーのやり方があり、統一させようとするとかえってそれぞれが主張しあい、まとまらなかったといいます。だから敢えて統一しませんでした。規則を作って波風を起こさせないと思っても、必ず起こってくるもの。顧客のために何をすべきか、してはいけないかは、マニュアルにいちいち書かなくても普段の仕事で徐々に統一化され、身に付くといいます。
自分の知識の豊富さや所作の正しさを得々と話す職員よりも、顧客の意見・要望を良く聞いてくれる職員のほうが顧客に好かれるのは言うまでもありません。
つまりは、マニュアルよりも絶えず顧客から学ぶということです。
まとめると、
顧客との対話で顧客を創る
この直売所は、「顧客のために、生産者や職員が存在する」というスタンスを明確にしています。生産者や職員はただ一点、顧客に向き合うことのみです。その状況を作っている責任者はただ者ではありません(今回は触れませんが、データ分析にも深いものがあります)。
後日立ち寄ったウィークデーの午後4時台でも、お客様はひっきりなしに訪れていました。
ここの生産者は、顧客が買うシーンを思い描いて商品を作っている、まさしくプロデューサー(生産者+演出者)だと思います。
ところで、ピーター・ドラッカーは、晩年、顧客との対話を重視していました。
それは「顧客との対話」により、「顧客を創造」していくという文脈です。
その顧客とは・・・ create a customer 一人の顧客のことです。
目の前の一人の顧客をファンにできるか。それくらいの想いが製品やサービスに込められていないと、大勢の人をコアな顧客にすることはできない、という意味でしょう。
この直売所を去る時、心に浮かんだ言葉が、
「ドラッカーは、直売所で生きている」です。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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