つい先ごろ、私が当初から関わっている長野高校SGH(スーパーグローバルハイスクール)の発表会があり、コメンテーターとして参加しました。
SGHとは、文部科学省が、急速に進むグローバル化に対し、語学力、幅広い教養、問題解決力等の国際的素養を身に付けたグローバル・リーダーを育成する高等学校等を指定し、人材育成を支援していくものです。
1年時からテーマ毎に班で取り組んできた課題研究を、3年生の代表12人がまとめ、そこから得られた成果を最終発表しました。その中に、農産物のマーケティングという観点から、考えさせられた事例を1つ紹介します。それは「相手のことを考えて発信するチカラ」というテーマでの事例でした。
課題「長野駅を訪れる観光客に、県オリジナル品種の知名度アップを図る」
食品分野のある班は、長野駅を訪れる観光客にリンゴ3兄弟(シナノスイート、シナノゴールド、秋映)という高品質リンゴをお土産に買ってもらうため、パンフレットを作成しました。
しかし・・・
持ち帰るには重すぎる、宅急便手続きには時間がかかる(配送料も負担大)、果物は鮮度が命(日持ちがしない)というデメリットもあります。というところで次の展開を考えあぐねていました。
課題「海外からの観光客に長野県果物の魅力をアピールする」
別の班は、ターゲットを海外からの観光客に絞り、県オリジナルな果物を「ドライフルーツ」を通じて伝えようとしました(生のリンゴは検疫もあり限定的、また日持ちの問題)。ドライフルーツは、軽くて小さいという利点があります。
しかし・・・
海外ではドライフルーツはポピュラーで、種類が豊富で競合します。味の好みも異なり、選んでもらうには海外の観光客に直接会って調べるしかありませんが、時間的に実現しませんでした。
2つの「道半ばの課題解決策」を顧客の視点から考えたらどうだろう
2つの課題解決策は、それぞれ問題点を抱えていますが、顧客の視点からから考え(=相手のことを考えて)、合わせてたらどうだろう、と12人は考えました。
それはずばり・・・
「国内の観光客に、りんご3兄弟のドライフルーツを発信して買ってもらう」。軽くて日持ちがし、高品質もアピールできるという仮説です。
もちろん、生食フルーツ需要が減少する中、国内のドライフルーツの需要動向やドライ技術、ブドウ等他果物との差別化、ドライにすることでの栄養価の変化や価格設定他、新たに調べることはいろいろあるでしょう(限られた時間でのフィールドワークではとても無理です)。
私がここで重要と思うのは、それ以前に、このように思考する試みが大切だということです。
行政等が行う商談会で、うまくいったケース、いかなかったケースを抽出し、その要因を分析することは普通に行われます。しかし、それぞれのケースのキー要因を組み合わせて新たなアプローチを提案する、というようなアイデアはなかなか見受けられません。
アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ
この発表を聞いていて、思い出したことがあります。ある本に出ていた次の言葉です。
「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。それを導く才能は、事物の関連性を見つけ出す才能に依存する。」
長野高校生が、2つの班の発表成果から、新しい組み合わせを顧客との関連性から導こうとする試みは、今後の知的活動に必ず役立つと思います。
ちなみに、この本はジェームス.W.ヤング著「アイデアの作り方」.1940年出版で、知的発想法の世界的ロングセラーです(私の持っている本は初版第58刷です)。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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