再びドラッカーで直売所を考える①

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7月13日のブログ「ドラッガーは直売所で生きている」にて、上田市内の直売所責任者を訪ねた際に感じたことを書きました。
数日前、松本市の直売所責任者と話す機会があり、大変得るところがありましたが、どう伝えていくか考えた末、今一度「ドラッカー」に登場願うことにしました。
考える軸は、改めて世界で「経営学の父」と呼ばれるピーター・ドラッカ―の著書『マネジメント』(エッセンシャル版)にある諸原則です。中でも、企業の目的、事業の定義、資産としての人、マネジャーとは何か、マーケティングと販売の違い等について、参考に考えます。

ドラッカー

あらかじめ、お断りしておきます。
私の能力では「もしドラ」(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら:累計販売部数280万部)的な記述は到底無理なことです。よろしくお願いします。(当然誰も期待していない、ハイ有難うございます・・・笑)
直売所責任者から色々話をお聞きしましたが、いくつかに絞って紹介します。

【管理運営は農業生産法人で株式会社】

株式会社は、取締役9名、株主9名、資本金18万円(語気を強めてエッ・ウッソーと言ってしまいましたか、でも誤記ではありません)、社員13名、売上実績はナント・・・
6億円です。農産物加工施設と農業体験場等を併せ持つ県内でも有数の直売所です。
そこで、実質取り仕切っているのが、ユニークな取締役I駅長です。そう、ここは道の駅の直売所なのです。駅長の話しを私流に解説していきたいと思います。

【この企業の目的は何か】

ドラッカーの言う企業の目的とは、「顧客の創造」です。では、この企業の目的は何でしょうか。あくまで私の考えですが、次のようになると思います。
「直売所等の事業を通じての地域の活性化と地域農業の振興」です。

この取締役9人が法人を立ち上げたワケは、単に直売所の発展のみならず、遊休荒廃地を解消し、農家が農業で生計を維持するシステムを作り、生きがいを提供する、そして域外顧客との交流で地域の活性化を図ることなのです。
そんな大きな目的を、こんな小さな株式会社が掲げて大丈夫なのか・・・。

そんな思いは、I駅長との次のやり取りで、アッというまに解消しました。

【私】6億円を売り上げていますが、失礼ながら報酬はどれくらいでしょうか。
【I駅長】当初は(今は株式会社化して5年経過)、片手以下でした。
【私】エッ、年間50万円以下ですか。
【I駅長】イヤ、5万円以下です。それでないと470人の生産者(ほとんどが女性)はついてきません。私の言うことを聞いてもらうには、報酬をもらっていては無理です(笑い)。

いかがでしょうか。
そう、この株式会社は、「地域社会の課題解決」をしようとする非営利法人(NPO)的な色彩を持つ組織なのです。利益を上げ、配分は生産者に還元するという考えです。
株式会社という形態は、信用力保持、迅速な意思決定、利益指向が活かせます。生産者の直売所への出荷では、協同組合的な結集・結束が必要ですし、顧客を集客するには、マーケティング力を要しますが、小さな株式会社の株主兼取締役は、その人的な信用や経験等により、地域で小回りの利くマグネットのような役割を発揮しています。

【この企業の事業の定義は】

続いて、この企業の「事業とは何か」を述べます。普段できるだけ簡潔に、しかし抽象的過ぎないよう表現すべき、と話している私としてI駅長のお話等から、次のような事業定義を想定してみました。
「農産物生産者と消費者が出会い互いに健康・幸せになるよう支援する事業」

いかがでしょうか。ドラッカーは、事業は「顧客が財やサービスを購入することにより満足させようとする欲求によって定義される」と言っています。この企業は、顧客とは、広い意味で生産者と消費者です。両方の欲求を満足させるためのサービスを行っているのです。
もう少し資料等を参考に、修飾語を加えて独自性を分かってもらう表現を試みますと・・・

「地域で新鮮・安心安全な農産物を作る顔の見える生産者と、食の楽しさを求める消費者が出会う場を提供し、両者の健康と幸せを守るお手伝いをする事業」

少しはイメージし易くなったでしょうか。

【顔の見える生産者とは】

そこで、新鮮で、安心安全な農産物を作っている470人の生産者と消費者の出会う場をどう作るかです。この直売所の壁面を見ると目に飛び込んでくるのは何でしょうか。

それは・・・470人の似顔絵がずらっと並んでいる壮観な光景です。

直売所似顔絵1

この「生産者たちの場」は圧倒的に他の直売所やスーパーにはない独自性を持っています。

【私】この似顔絵は、圧倒的ですね。コストがかかっているでしょう?
【I駅長】生産者の場作りということで、写真はイヤだが、似顔絵ならと女性も了解して
くれますね。1枚1,000円で画家の卵に書いてもらっています。

コストは全員分で47万円、はるかに価値のある一手と思います。

次に、食の楽しさを求める消費者にどうアピールし、顧客を創造しているのか、この直売所のユニークな取組みついては、次回紹介します。
全国的にお盆の時期、ドラッカーを偲びつつ、少し原点に返って考え、述べていくことをお許し下さい。

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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