再びドラッカーで直売所を考える③ 「まとめ」

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2回にわたり、松本市にある直売所についてレポート風に書きましたが、ドラッカーを参照しつつまとめてみます。なぜ改めてドラッカーなのか・・・
それは、「私が地方再生には直売所の存在が欠かせない」と考えるからであり、その運営はドラッカーから学ぶのが一番効果的と思うからです。

ここは、関東道の駅アワード2014の選出30か所の一つに選ばれた道の駅の直売所です。地域の振興のため、直売所と多目的交流施設を市が、道路施設部分は県が整備。平成23年より有志で農業生産法人・株式会社「I」を設立し運営しています。翌年には当社が補助金を活用して農産物加工施設を整え、6次産業化も進めています。

当社は、道の駅の運営事業者で総合的に13事業を行っており、直売所を中心に売上高計6億円、関連図を描くと以下の通りです。見にくいですが、位置関係・アバウトな仕組みのみでご容赦ください。駅長へのインタビューや各種資料等を参考に、あくまで私が理解するために整理したものです、ご了解ください。

道の駅事業関連図2

この図も参考に、ドラッカーが重要視している企業の目的、事業の定義、マーケティング等につき、私流に整理してみます。

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【この企業の目的は何か】 

ドラッカーは、企業の目的を「顧客の創造」と言っています。「道の駅」の施設としての直売所は、「農業振興・地域活性化」の目的で整備されました。ですから、農業の担い手減少、耕作放棄地の拡大という地域が抱える深刻な課題解決に向け、施設を運営する当社も、この目的を共有する立場にあります。

そこで、顧客を「地域農業生産者」と仮に置いてみますと、彼らの創造ということになります。農業生産法人でもある当社は、「農業者が農業で暮らせる仕組み作り」(資料に明示されています)を主目的として掲げ、地域外消費者や地域住民を巻き込んで総合事業(13事業)を行うことで、地域の生産者という顧客を創造していく道筋かと思います。だとすれば、そう、当社は直売所を運営しているのではなく、地域を運営しているのです。

【さらに事業の定義は】

13事業(農業生産・農産物販売・農家食堂・農産部加工・資材購買・生産指導・農業観光他)を行う当社の事業を敢えて私流に定義すれば、
生産者と消費者が農業・食を通じて交流し、地域住民を含め互いに健康・幸せになるよう支援する事業」になろうかと思います。ここでは、農産物を食べる消費者のみならず、作っている生産者も農業を継続していくことで共に健康・幸せになるという視点を含めました(これは、どこかで読んだ次のフレーズに触発されたものです-“牛乳を飲んでる人より配達している人の方が元気である”)。

【直売所事業の顧客は誰か】

さて、直売所事業において、その顧客とはだれでしょう。事業収益確保の仕組みを考えます。「当社は、生産者と消費者にサービス(生産・加工等の指導、味覚イベント・プレゼントや農産物情報等)を提供し、直売所での売買で得た生産者の売上代金から委託販売手数料として収益を得る」になるかと思います。
実際に、当社は生産者と消費者にサービスを提供しており、その対価として収益を得るというビジネスと考えれば、当社にとって顧客は「生産者と消費者」になります(全体図参照)。

ドラッカーは言います。「生活用品のメーカーは、主婦・小売店という2種類の顧客を持つ。主婦に買う気を起こさせても、店が品物を置いてくれなければ何にもならない。店が目につくよう陳列しても主婦が買ってくれなければ何にもならない」と。その例にならえば、「消費者が直売所で買ってくれても、それを受け取った生産者が手数料として払ってくれなければ何にもならない」と。

「売れる仕組みを作る」

では、消費者が直売所に求める欲求は何か
ズバリ、「スーパーにないもの」とすれば、新鮮さ・安心安全はどちらにも求められるので、違いは「味覚イベント・農産物プレゼント」「農産物の栄養・機能性情報」「本物ならではの驚き」「顔の見える生産者との楽しい買い物」等です。「470人の似顔絵で個々の安心安全をアピール」し、加工所を使ってマイラベルの「カラフルな加工商品による買い物の楽しさ」の提供、農家食堂や体験農場を直売所に結び付け、売れる仕組みを作っていると思います。ずばり、この仕組み作りは、ドラッカーのいうマーケティングの目指すもの=「顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、自ずから売れるようにすること」に合致します。

【農業で暮らせる仕組みを作る】

当社の「農産物が売れる仕組み」とは、一方「生産者が農業で暮らせる仕組みを意味します。ジュースやジャム等の農家ラベル(マイラベル)を持つ6次産業化商品は、消費者に楽しい買い物を提供すると同時に、生産者には通年で収入を得る商品となります。

【このI駅長は何者か】

最後に、色々な手を打ち成果を出している取締役駅長I氏とは、どんな方なのでしょうか(お待たせしました・・・笑)。

I氏は、元農協職員です(意外ですか)。それも営農技術員で生産指導をした後、販売部署の経験をしています。何をすれば生産者は言うことを聞いてくれ、消費者は反応しお客様として来てくれるのか、学んだと思います。また農協管内の数か所の直売所開設に関わった経験もあり、ノウハウを蓄積されたと思います。

なるほど、自分で作物を作ってみて、ニンニクとラッキョウ作りを奨めたり、「1反部で100万円稼ぐには」等を指導し、一方、「スイカ重量当てクイズ」を仕掛けたり、農産物プレゼント用の収穫体験農場を作ってしまったり、470人の出荷生産者全員の似顔絵を店舗に掲載するのも、農協での経験が活かされていると思います。I駅長は現場の経験・情報を一番持っているので、皆が話を聞くのです。

【農協への想い】

彼を含む取締役9人が意思決定し実行してきたことには、今まで述べた以外に、買い物弱者支援事業として、毎週1回市内5カ所での出張販売があります。農業観光として田んぼオーナー・果物オーナー制度も手掛けています。
その上で、特筆すべきことは、ずばり言うと・・・「生産者への利益還元」です。収益の一定割合を農業振興対策費とし、新しい作物の栽培、新しい加工品の開発など、「やる気のある生産者」を支援していることです。

私は、I氏との短い時間のやり取りの中で、話された一言が強く印象に残りました。その言葉とは・・・「ここでは、やりたかったことがすぐできます!」。取締役会を開いて決めれば、すぐやれるという言葉で、その時私が思ったことは農協組織との関係です。以下は私の想像ですが・・・

「勤めていた農協組織は大きく、色々な考え方を持つ人がいて、生産者組合員の為にできることは限られ、取り組むにも時間がかかった。でもこの小さな企業では、生産者の為にすぐできる」。I氏以外の取締役には会っていませんが、同じ考えだからすぐ決められるのだと思います。

本来、農業協同組合の目的とは、農家組合員が協同し地域の産地を守り発展させる、そして農家組合員の所得増を図ることです。I氏は言います。「農協は6次産業化には消極的です。でも、通年で農家所得を上げるには、6次化が不可欠なんです」「畑で捨てたり腐らせてはいけない、全部直売所に持ってきてほしい」「農村は資源の宝庫です」耳に残るフレーズがテンポよく出てきます。

ドラッカーは言います。「無人の山中で木が倒れた時、音はするか・・・。音波は発生する、しかし、音を聞くものがいなければ、音はしない・・・。これは神秘家の公案だが、コミュニケーションは聞き手がいなければ成立しないということを意味する」。

生産者や消費者の言うことを真摯に聞き、コミュニケーションを図っているのがI氏だと思います。

この小さな農業生産法人・株式会社こそ、自ら出資し事業を行い、獲得した利益は株主にではなく、生産者に還元する(当初はほとんど無報酬)という、協同組合的思いの経営といっていいのではないでしょうか。農協時代やりたかった「生産者が農業で暮らせる仕組みづくり」を、今、違う立場でやっているのだと思います。その思いに私は強く共感します。

今こうして発信している私も、農協組織に30年余勤めていたからこそ共感できるのです

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川 正之
アグリフード(風土)アドバイザー

長野県の農産物統一ブランド「おいしい信州ふーど(風土)」を創設し中心となって推進。また信州6次産業化推進協議会副事務局長として、地域6次産業化を主導。H28年3月をもって任期満了し、地域創生を支援するアグリフード(風土)アドバイザー業務を開始する。長野県内で幅広いネットワークを持つ。現上田市農政課職員。中小企業診断士。

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