映画「君の名は。」を見て地域創生を考える③

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0

前々回、前回、私はこの映画を見て、地域創生には「この地の歴史的・文化的な基軸が必要」「過去を新たな視点で見直し光を当て、地域の固有性という付加価値を生みだす」と書きました。そのもとになっている「ある考え方」を紹介します。それは・・・

「逆ビジョン」という考え方

初めて聞く方が多いのではないでしょうか。この考え方は、私が農協に出向している時に(前々回のブログ①で触れました)、たまたまご縁で東京のある勉強会に参加し、そこで教えてもらったものです(ネットで調べると出てきます)。逆ビジョンとは、どんな考え方か。

通常のビジョンと比べて3つの視点から述べます。

一つ目は、場所性を重視することです。ビジョンが将来を見据えて想像で抽象世界を書くのに対し、逆ビジョンは現在そして過去に存在する具体的な場所を選んで、その物語を具体的に描きます。

二つ目は、小さな地域が自ら考え発信するということです。ビジョンが繁栄している都市の目線で、中央からの情報発信に頼って作るのに対し、逆ビジョンは繁栄していない豊かな地域の目線で、各地の生活者の視点から考え描きます。

三つ目は、日本古来の文明を見直すことです。ビジョンは物質エネルギーを主体とする欧米型の近代文明をベースとしますが、逆ビジョンは生命、自然などを主体とする我が国の伝統文明をベースとします。

ニュアンスは、わかっていただけたでしょうか。

通常のビジョンは、体験していない未来を想定し、それに形を与えるものですが、逆ビジョンは既にある(あった)場所を発見・選択し、そこでの仕事や生活において大事な価値を持つ「命」のつながりという原点を基軸にすることに、本質的な意味があります。

自然の中で、色々な命はつながり支えあって成立しています。命のつながりこそ、私たちが幸せになることと同じという考え方です。

日本古来の「自然の中に神様を見る」や「自然との調和」、「もったいなとすぐ思う心」「自然と手を合わせ感謝する心」「もののあわれ」など、日本には命を大切にする素晴らしい文明・文化があります。

そこで、私は行政上、この視点から考え直すことが必要と思うことがあります。それは何か・・・

平成の大合併後の中心と周辺 

合併特例債というインセンティブがあり、多くの自治体が一挙に集約され、大きく括られました。新たな合併地域では、役場の置かれた地が中心となり、その他は「周辺」となりました。その「周辺」(さらに周縁と化していますが・・・)の伝統や文化や生活習慣は、人口減少下で急速に失われつつあります。

大学の教授やシンクタンクの研究員は、大概が旧市町村の独自性には関心が薄く、新しいエリアの中で、直線的に目立つものをデフォルメしがちです(個人的な感想です)。

しかし、「周辺」である旧単位の(場合によってはそれ以前の)小さな地域にこそ、命のつながり・大切さを表すお祭りや行事、言い伝え等があり地域資源の宝庫でもあります。それらを生活者視点で価値化し新たな行政単位の中で共有します。

合併前は、お互いに敢えて関心を持たなかった地域が、かえって合併して知り合い、お互いを尊重し合い、ネットワーク化して持続可能な新たな枠組みを作っていくことこそが、行政が行う地域創生の方向ではないでしょうか。

「結び」という言葉

映画では、舞台の糸守町の氏神様を表す古い言葉として「ムスビ」が出てきます。広い意味で、人をつなげることや時間の流れ、そして命のつながりもムスビとしています。

漢字では「結び」ですが、まさしくこの映画を見た観客をも結んでいると思います。観客として「君の名は。」を見てつながる(結ばれる)と、人生も良い方向になると思われます。なぜ勝手にそう思うのか・・・

結びの「結」という字は、つながる「糸」の横に「吉」が出てくるからです(単純に見て下さいという催促・・・笑)。

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加