6次産業化の基本 ~初心者のための実践ガイド~

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6次産業化

6次産業化に今から取り組もうと考えている農業者向けに、6次産業化についての基本をまとめました。

僕自身、ブドウ農家で働きながら、6次産業化に真剣に取り組んできました。加工品を、シンガポールにも売りに行きました。今は独立して農業者支援の仕事をしています。クライアントさんと一緒に、今でも試行錯誤しながら6次産業化に取り組んでいます。

だから机上の空論ではなく、実践に基づいた内容です。一般的に言われている内容とは異なる部分もあるかもしれません。その違いは、”実践経験”が反映されているとご理解ください。

さあ、基本的だけど、リアルな6次産業化を知る覚悟はありますか?

6次産業化とは?

農作物を栽培する農業のことを1次産業と言います。それらの原料を加工する加工製造業を2次産業。そして商品の販売や流通を、3次産業と言います。

農業者が1次、2次、3次産業の全てに取り組むことを、6次産業化と呼びます。なぜ6次なのか?それは、、、

1次×2次×3次=6次産業

です。掛け算した訳ですね。(足し算という説もありますが、答えは同じです。)

なぜ今、6次産業化が注目されているのか?

ご存知の方も多いと思いますが、日本の農業は衰退の一途をたどっています。農業従事者は、1985年には542万人いましたが、2016年には200万人を割りました。しかも平均年齢は70歳に迫ろうとしています。

戦後から今まで、大半の農家は、栽培した作物をすべて農協(JA)に買い取ってもらっていました。価格決定権はありません。しかし、すべてを買い取ってもらえるとうメリットがありました。農家は、栽培に集中できるわけです。戦後はそれで良かったのでしょう。

しかしここには大きなデメリットがありました。農家が経営感覚を養うことができないのです。営業能力が身に付きません。農協に卸しているだけの農業は、ビジネスではないとも言われます。僕も実際そうだと思います。

平成の世の中に入り、時代は大きく変わりました。ITや物流が発達し、グローバル化が進みました。バブルがはじけ、大手企業でも倒産する時代になりました。

商品が溢れ、顧客のニーズが多様化し、輸入製品も多く入ってくるようになりました。その厳しい変化に対応できた企業だけが生き残ることができます。

農業はその変化に、完全に乗り遅れてしまったのです。取り残された業界です。経営感覚も、自分で売っていくこともできない農家は、生計を立てることができません。儲からないから、跡継ぎもいません。だから廃業します。

そこで出てきた考え方が6次産業化です。農業者が、農作物に付加価値をつけて、自分たちで売っていこうという考え方です。6次産業に取り組み、加工品を作れば、経営が安定します。

例えばブドウであれば、通常収穫期は9~10月。もしこの時期に、台風や雹の自然災害で、収穫間際のブドウが被害を受けたら、農家は一瞬で倒産します。しかし通年販売できる加工品があれば、そのリスクを低減できる訳です。

課題だらけの6次産業化

とは言っても、今まで農作業しかやったこなかった農家が、いきなり加工品を作って、自分たちで売り歩くことは困難です。特に、高齢化した農家が、柔軟な発想で商売をすることは、正直無理かもしれません。

若い人は頑張ってやっている人もいます。しかし壁にぶつかっている農家が大半です。行政からの指導を受けて、加工品を作ってみたものの、結局在庫の山。売り方が分からないでのす。在庫の山=不良在庫です。あなたのキャッシュフローは著しく悪化します。最悪、倒産です。

確かに、瞬間的に売れることはあります。しかし重要なのは、継続して販売すること。安定的に成長すること。そして、農業を長期に渡り持続させていくこと。これがとても難しわけです。

さらには、加工業についても農家は素人です。加工技術や品質管理のノウハウを身に付けるには時間がかかります。しかも農作業の片手間です。もし品質クレームが発生したとしても、何が問題なのかすら分からないのです。

加工業に力を入れれば入れるほど、本業である農作業が疎かになっていきます。農産物を評価してくれていたお客さんが離れていくという、本末転倒なことにもなります。

農業者の甘ちゃんな言い訳

上でいろいろ課題を書きました。農業者のあなたはウンウンと思いながら読んだと思います。しかし・・・

他の業界の人は異なる反応を示すはずです。商売は簡単なことではありません。アイデアを出し、それを試し、改善を繰り返さないといけません。皆、切磋琢磨しています。必死に学んでいます。

農家だから上手くできない・・・、というのは甘えでもあります。農業をビジネスとしてやっていくのであれば、経営者としての姿勢が大切です。

農家の言い訳としてよくあるのは・・・「上手くいかないのは行政が悪い。国が悪い。」「補助金が足りない」・・・など。

農業者の甘えた姿勢も、6次産業化が上手く進まない一つの原因です。

農業者のマインド転換が必要

国や地方自治体が補助金を出してくれるから6次産業化に取り組む、と考えているようなら、辞めたほうがいいです。成功することはありません。発想が間違っています。

お客さんに、商品を通して価値を届ける意思を持ってください。もっとお客さんに喜んでもらうマインドセットが重要です。たしかに、今まで農協としか取引をしていなかった農家が、いきなりそのマインドを持つことは難しいでしょう。

そんなあなたは、まず1次産品(農産物)を、直接お客さんに売るということからチャレンジしてください。そこでお客さんと向き合う経験とノウハウを積んでください。6次産業化に取り組むのはそこからです。

繰り返し言いますが、何となく儲かりそうだからとか、補助金がもらえるとかの理由で、6次産業化に取り組んではいけません。6次産業化は、ビジネスです。お客さんに、もっと喜んでもらうための事業です。

そのマインドのある農家は、6次産業化という言葉が普及する前から、実は加工品を作って、自分の力で販売しています。「え、これって6次産業化なの?」くらいの感覚です。これが正しい感覚です。

あなたがもしその感覚が持てないのであれば、ぜひ農協との取引を拡大してください。

6次産業化の進め方

あなたの農作物を使って、ジャムやジュースなど、作ってみたいものをイメージしてみましょう。まずは自分で食べたいと思えるもので良いです。熱意を注げる商品を考えてみましょう。

また、既存のお客さんの意見を聞いてみてください。「こんな商品を作ろうと考えているけど、どう思いますか?」と単刀直入に聞いてみてください。こういうったリサーチから入ります。

次の段階では計画を立てます。一番大切なのはキャッシュフローです。資金繰りですね。6次産業化にはお金がかかります。原料を仕入れることもあります。加工には人件費がかかります。販売促進費もかかります。さらには想定外のクレームも発生します。

お金だけでなく、予想以上に時間もとられます。

どこまでを自分でやるか考える

最初のうちは、すべてを自分でやろうと考えてはいけません。

商品コンセプトやレシピはあなた自身で考えないといけませんが、委託加工にしてください。プロにお任せです。もちろん委託加工費はかかりますが、あなたの貴重な時間を加工作業に回すより安上がりです。

最小ロットで商品を作ってみましょう。ジャムであれば、500個くらいから作ってくれる業者がいます。ここからスタートしてみてください。

販売についてはどうでしょうか?信頼できる販売パートナーと組むことをお勧めします。僕も最初のころは組んでいました。お客さんとしっかり繋げてくれ、販売のノウハウを教えてくれるパートナーです。販売についても、徐々に学んでいってください。

まずは、人の力も頼りながら、小さくスタートするのが基本です。

いきなり完璧な商品を作ると失敗する

何を言っているか分からないかもしれませんが、このことを絶対に忘れないでください。農家が一番失敗するのがこれです。ほとんどの農家は自分の作った加工品に誇りをもっています。売り出しさえすれば、勝手にどんどん売れると信じています。営業活動は、自分が手を汚すほどの活動ではないと思っている人もいるくらいです。

あなたにとって最高の商品は、お客さんにとっても最高の商品だとなぜ言い切れるのでしょうか?商品の良し悪しは、農家の判断で決まるものではありません。6次産業化の本質は、お客さんに価値を提供することであり、その価値を判断できるのはお客さんのみです。お客さんが喜んで繰り返し買ってくれれば、あなたの商品は良い商品だということになります。

だから、時間とコストをかけて商品を完璧にしてはいけません。その前に、なるべく早く販売を開始しましょう。場合によっては、類似商品を他業者より仕入れて、テスト販売してみるのも効果的です。

買ってくれる人がいると、お客さんからのフィードバックが入りはじめます。商品のブラッシュアップを開始するのは、ここからです。フィードバックを取り入れながら、よりよい商品作りに取り組みましょう。

発展編

6次産業化の具体的ノウハウについて更に知りたい人は、以下をこちらをご参照ください。様々な手法をまとめてあります。

6次産業化の実践的手法
https://agri-marketing.jp/category/sixth-industry/

この記事を書いた人

田中良介
田中良介
Innova Market Insights社の日本カントリーマネージャー。世界の最新トレンドとマーケティングに精通しており、食品企業の商品開発やマーケティング活動を支援している。自身もかつては食品企業で、苦労しながら商品開発と販売をしていた経験あり。 日本と世界をつなぐ架け橋となり、食品企業のレベル向上に貢献することがミッション。 海外での講演活動にも精力的に取り組む。
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