前回のブログ①②で、「グローバリズムが経済成長を鈍化させるという仕組み」について書きました。簡単に復習します。
ビジネスへの自由は、成長をもたらさなかった
グローバリズムから導かれる自由貿易では、グローバル企業(大企業)は短期間で利益を上げねばならないため、世界中で低賃金の労働者を求め移動します。そして、供給力が上がる一方、需要はそれほど増えず慢性的なデフレになります。
そうすると、過剰生産となり生産調整のため雇用は失われ、失業率は上昇します。「底辺への競争」といわれる所以です。
そもそも、資本主義はもう限界にきており、新たな需要は生まれない、ゼロ%金利が続くのは資本が利潤を生まないことを現しているという意見(日本大学教授・水野和夫氏)に私は賛成します。
一般的には、ビジネスに自由さえ与えれば富も雇用も創出され、最大限の成長があると信じられてきましたが、それは事実ではなかったということです。自由に競争する限り、自由に勝ってよい、自由に潰れてよい、それからもたらさせる「2極化の最大化」という世界がいいのでしょうか。
TPPもストップ
政府によれば、TPPは、民主主義、基本的人権を促進するための有効な手段とのことです。しかし、TPPの条約は8400ページあり、わずか2400ページしか翻訳されておらず、しかもその資料は公開できない黒塗りだらけの秘密協定です。
それを今時点で強行採決するというのは、常識的に考えてもおかしいと思います。
しかし、ここにきてトランプ次期大統領が「このTPP条約には反対」という立場を明確にしたことを、私たちはしっかり考える必要があります。発展途上国は、TPP推進でグローバル企業を誘致し、自国の安価な労働力により経済拡大・雇用アップを図りたいでしょうが、賃金の高い先進諸国の人々は無用とみなされることを考えねばなりません。
ロシアが浮上
EUを離脱した英国は反ロシアでしたが、ロシアとの正常化を言っていますし、トランプはプーチンに親しみを感じているといいます。なぜでしょうか・・・。
私が思うには、「グローバリズムと戦い屈しないプーチンのロシアという強い国家」に対して、グローバル企業に席巻され職を奪われているアメリカや移民受け入れで治安の不安を感ずる英国が、強国に「親しみ」を感じているのではないかと思うのです。
刹那主義・拝金主義・利己主義
翻って、我が国を考えてみますと、小泉内閣が「ぶっ壊す」というあたかも「自縛を解き放って自由への扉を開く」がごとく勇ましくラッパを吹き、その結果が「今だけ(刹那主義)、金だけ(拝金主義)、自分だけ(利己主義)」というどうしようもない流れを作ってしまったと思います。
そこで、仮に「国家の時代」というならば、日本は、人口減少社会でどんな価値観を持って生活するのか、考えねばなりません。これは、政治家ではなく、私たち国民一人ひとりが考えることです。
そこで、ドイツ出身の哲学者、思想家で、ユダヤ人であるハンナ・アーレントの著書を参考に考えてみます。彼女は、ナチズムが台頭したドイツからアメリカ合衆国に亡命、主に政治哲学の分野で活躍し、全体主義を生みだす大衆社会の分析で知られています。
ハンナ・アーレントに学ぶ
彼女の論述で物議をかもしたものとして、「アイヒマン論争」があります。アイヒマンは、ナチ親衛隊のユダヤ人問題の責任者として大量殺戮の実行を担っていました。そのアイヒマンの裁判で、彼女は次のように雑誌に書き激しい非難を浴びました。それは・・・
アイヒマンは、怪物的な悪の権化ではなく、「思考の欠如した凡庸な男」と叙述したことです。紋切り型の官僚用語を繰り返す話す能力の不足が、他の人の立場に立って考える能力の不足と密接に結びついていると記述したのです。
これは多くのユダヤ人から犯罪者の責任を軽くしていると糾弾されました(ここではこれだけに留めておきます)。しかし、アイヒマンの無思考性と悪の凡庸さという問題は、全体主義という極端な状況下でなくても、不断に心に留めておく必要があると思います。
どのような立場で考えるか
「グローバリズムは善」を信ずる「思考停止に落ちいった凡庸な男」にならないために、私たちが心がけることはなんでしょうか。それは・・・
判断力が機能するためには、人間の社交性が条件であり、人間の判断力は、他者の視点から世界がどのように見えるかを想像する力を前提としているということです。私たちは、グローバリズムを考える時(TPPについても)、イエスかノーかではなく、他者の立場に立ち、批判的に考えてみることが重要と思うのです。
個人がバラバラで内向きになり、健康・容姿・学歴など、自分の事ばかり心配するようになり、趣味が同じなど、小さなグループを作って閉じこもり、同調作用で安心したい。それは「より速く・より遠くに・より合理的に」という価値観のもとで育まれました。
しかし、考えを「よりゆっくり・より近くに・より寛容に」と変えることで、違った他者の立場で考えることができるのではないでしょうか。
10日ほど前、「千曲川ワインバレー巡り」として、東京の知人たち5人と軽井沢~東御市までワイナリー等を回りました。そこでは、ワインの話しのほか、色々なことを気楽に話したのですが、普段会えない方達との自由な議論で気づくことが多くあり、大変有意義でした。
還暦を過ぎた今、近くにあるワイナリーで、「大地の滋養を汲み上げたぶどう」からなるワインを、その地の風を感じてゆっくりと飲みつつ、年齢を超えて色々な立場の方達と寛容な議論をする生き方を見出したいと思います。グローバリズムの次に何がやってくるのかを探ることになると信じつつ・・・。
参考主要図書:「㈱貧困大国アメリカ」「沈みゆく大国アメリカ」「政府はもう嘘をつけない」(堤未果著)、「TPP亡国論」「世界を戦争に導くグローバリズム」(中野剛志)、「グローバリズム以後」(トッド著)、「グローバリズムが世界を滅ぼす」(トッド他)、「貨幣の思想史」(内山節)、「ガルブレイス」(伊東光晴著)、「資本主義の終焉と歴史の危機」(水野和夫著)、「ハンナ・アーレント」(矢野久美子著)
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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