アベセデス・マトリクス②

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ABCDS(アベセデス)・マトリクスの続きです。前回は、酒を使って農業―工業軸ローカル(弱い情報発信力)―グローバル(強い情報発信力)軸からなる4つのカテゴリーについて説明しました。
今回は食に広げ、4つのカテゴリーを使って、何を言えるか試みたいと思います。

前回は、酒という農業での作り手の立場(A=ヤシ酒)から工業化(B=日本酒)し、更に情報発信力を強めて世界に発信する(C=ビール)道筋と、希少性と高品質を活かし更に個性化する(D=ドメーヌ・ワイン)という存在を示しました。

生産者の立場からの説明

今回は、まず農産物の生産者の立場から述べてみると、どうなるでしょうか・・・。

定年退職して家庭菜園を楽しみ、自分で作ったキュウリやトマトを美味しくいただく。つまりは作り手がイコール食べ手であるという範囲はAです。

次に、広大な面積の畑を所有して、春から秋にかけて何回も同じ畑でキャベツやレタスを作り、全国の相場をコンピュータで確認しながら出荷する高原野菜農家はBといえるでしょう。

さらにスケールの大きい、輸出に関わる国際的な穀物農場や種苗を世界市場で独占する会社はCと思います。では、Dはどういう生産者でしょうか。それは・・・

情報化の時代、ある作物を作るのに適する気候や地形・地質を持つ土地を選んで作る人が出てきます。

従来のやり方にこだわらず、アプローチする人達です。ワインを例に取ればわかり易いでしょう。土地に縛られていた生産者が、土地を選択して土壌改良も施し、作りたいものにアプローチし、その品質を情報発信し評価される存在です。これからですが、私の周りにはその萌芽となる人たちがいます。

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食べる立場からの説明

次に、食べる立場からマトリクスを見てみましょう。

私たちは、Aの時代、手に入るカツカツの食料でやり過ごしてきました。私の場合はつい最近といってもいいくらいです(ホントです・・・トホホ)。やがて、自分の家で作る料理のほか、工場で製造された食品も食卓に上るようになります。

食物の選択の自由が与えられるBの時代です。色々な料理が登場しバラエティに富んできます。

このBがさらに進んで、世界中から様々な食品が輸入され、何を食べたらよいか悩むほど食物があふれ、グルメという言葉が日常化するCの時代が到来します。食事はアウトソーシングされ、外食・中食が大きな存在となり、飽食の時代、そして肥満問題も深刻化してきます。

ここで、B、Cにおける「S化」とはどういうものでしょうか。不規則化した食の中で、希釈化するとはどういうことをさすのでしょうか。
それは・・・
手軽に食べれる「スナック化」のS化ではないでしょうか。大量に食べられ、栄養は限定的というポジションです。

では、Dの時代とはどういうものでしょうか・・・。

Aの食からB、Cを経由する道筋で説明してみましょう。その土地でとれた食べ物を当たり前に食べているのがAとすると、BやCの段階でステーキやフォアグラにはもう飽きた健康を重視しダイエットにも役立つ限定生産された有機無農薬野菜や玄米食等の情報を収集して食べる人たちが現れます。Dの時代といえます。

単に美食に飽きたからではなく、健康に良いという情報があるから目刺しや発酵食の漬物を食するのです(ここでは、「強い情報力」がポイントであり、グローバル化にはこだわらない柔軟さが求められます・・・笑)。

体が欲するより先に頭で食べるDの人は、健康情報ではじめて安心して食べることができる人です。ここで、お気づきでしょう。情報化の時代は、A→B→C→Dの経路をたどらなくてもよいのです。

A→Dへダイレクトに移行できる可能性があるのです。しかし、容易ではありません。とことん考え抜く覚悟が求められます。

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一方、Dの時代は、こんな料理も存在するはずです。一流シェフがその地で採れたものだけを使って、最高級の料理を提供するのです。それも世界に通用する料理・・・。実際に、私はその料理を食しました。

何を隠そう(笑)、フランス料理界で最も権威のあるコンクール「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」フランス本選で日本人として初めて銅メダルを獲得したブレストンコートの浜田統之シェフの料理は、長野県内の魚や食材だけで料理をし、全国や世界から美食家が食べに訪れます。私も食べましたが、何とも言えない幸福感に満たされました。

時代は、Dを指向しているように見えますが、A、B、Cも並行して残るでしょう。選択の自由は確保されています。

このマトリクスは、地域創生に向けた情報発信にも役立ちます。その地は、他とどんな違いがあり、何を誰宛に発信するのか、考えてみる価値はあります。何を違いとして発信するのか、問い続けることが重要です

考案者の一人の玉村豊男さんは、「あまり厳格にABCDSマトリクスの適用を考えず、未来を考えるヒントが得られればという柔軟な姿勢が大切」と言っています。いろいろな取組みを試みてみませんか。

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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