特産品の満足は「歴史伝統性」からは得られない①

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先日、「地域振興とブランド化」と題する講演会を聞きに行きました。講師の大学准教授は、農産物のブランド化について、歯切れよく語りましたが、そこで気になったことがあります。

それは・・・「特産品の購入満足度において、歴史伝統性はマイナス効果」という説明です。聞いてもなかなか理解できなかったので、さっそく教えてもらった出典の著書(田村正紀,「ブランドの誕生」,千倉書房,2011年)を購入し、考えてみました。 まずは、準備運動からです。

顧客化に向けた階層の流れ 

全国市場で特産品を地域ブランドとして確立することは、容易ではありません。全国のマーケターが日々努力されています。その商品のブランド化に向けた顧客化階層の展開は次のようになるでしょう。

不認知 → 認知 → 理解 → 試買 → 常用

まず、その商品の名前さえ知らない消費者は「不認知」階層にいます。名前を知れば「認知」階層となり、どんなものかを見聞きすれば「理解」階層に進みます。さらに、買えば「試買」階層となり、現在でも反復的に購買していると「常用」の階層に入ります。不認知~理解の階層は潜在顧客を意味します。

顧客階層化の推移とマーケティング活動

大雑把にいって、不認知~理解までの推移は、「広告宣伝」が主となります。テレビCM・新聞・雑誌・パンフ・ネットや、自治体HP、ブログ発信もあります。

「販路開拓」のマーケティング活動は、認知~常用までの幅広い段階で行われます。その商品の情報を消費者が理解しても、商品を入手できなければ試買につながりません。そして購入が容易な販路を提供してこそ常用につながるのです。販路開拓は、特産品と消費者の接触機会を提供する活動といえます。

理解~常用では、実際に食べてもらい、リピーターになってもらえるかが問われます。そこで「商品開発」がポイントです。商品特性として、味・鮮度・独自性・地域や歴史のイメージ・見た目など、多様な側面を含んでいます。そして、試買した後の購入者満足度が問題となります。

購入者満足度の決め手は何か

紹介している著書が利用している基本データは、日経リサーチによる「地域ブランド戦略サーベイ(名産品編)」によって収集された調査項目等で、調査対象の特産品は389です。購入者満足度調査における商品特性のグルーピングは、

歴史伝統性(地域や商品の歴史伝統性、独自性、見た目、味)
著名度(評判の高さ、ブランド名・ロゴマーク、コンテスト受賞実績)
風土依存品質(地域自然環境、品質、効能、成分、鮮度)の3つです。

その調査結果は、実に考えさせられるものです。というのは・・・

満足度と高い相関は「著名度と風土依存品質」であり、リピートする誘因は、品質・効能・成分・鮮度であり、特産品が生み出された地域の自然環境です。その商品特性と関連する経験価値の面からみると、

地域史体感(歴史文化学習、地域の想い・志、懐かしい気持ち)
楽しい気分(楽しい気分、元気な気持ち、なじみ・安心感)
贅沢な気分(感動・高品質・非日常・価格に見合った価値)
くつろぎ(健康・美容効果・心を癒す・季節感を感じる)

がある中で、「贅沢な気分」や「くつろぎ」という価値との相関が高く、これらは著名度や風土依存品質から強く影響を受けています。

ここで、注目すべきは、なんといっても購入者満足度における「歴史伝統性」がマイナス相関であることです。歴史伝統性の影響が弱いというならわかりますが、マイナスというのは、どう理解したらよいのでしょうか。それを考える前に、もう一つ確認しておく結果があります。

試買率と高い相関があるのは・・・

購入者は試買し、満足し常用するという過程を踏みますが、最初の試買率の向上に最も影響の大きい商品特性は何でしょうか。それは、なんと・・・
「歴史伝統性」です。

つまり、「歴史伝統性」は、試買率の向上では最も影響が高く、購入満足度では最も低い(マイナス)という結果であり、どう理解したらよいか、厄介な問題です。「名物に美味いものなし」という結論を簡単に出す前に、少し考えてみましょう・・・。

オッと、準備運動に字数をかけてしまいました。・・・続きは次回に。

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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