特産品の満足は「歴史伝統性」からは得られない②

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前回、試買率向上に最も影響の大きい商品特性は「地域伝統性」と書きました。

観光地やご当地を訪れた観光客は、昼食にご当地料理(讃岐うどん、長崎皿うどん、札幌ラーメン他)を食べ、訪れた名所・旧跡での歴史に触れ、せっかく訪れたのだからと記念に菓子ほかの土産品を購入し、試買率が高くなります。「楽しい気分」や「地域史体感」がセットでの行動になると思われます。

出典著書での調査によると、発展段階(不認知率15%未満=85%以上認知)商品群の試買率は60%位、未発展段階(不認知率50%以上)商品群では30%位であり、試買率→常用率へのシフトは共に約30%です。

ここで重要になるのが、常用するかどうかに影響する購入者満足度です。試買して購入満足した人が常用者に移行する、という経路からして当然でしょう。この購入者満足度は、ずばり・・・著名度と風土依存品質」に依存します。

品質や効能やその地の自然的価値を評価した結果、再購買するかどうかを決めるということかと思います。問題は、「歴史伝統性」という因子がマイナスの影響を及ぼす=不満を表している、という点をどう解釈するかです。出典では「名物に美味いものなし」の一言しかありませんので、私が思いつくケースを述べてみます。

「歴史伝統性」がマイナスのわけ 

大雑把にいって、二つ考えられると思います(もっとあると思いますが・・・)。

一つ目は、歴史伝統に触れたい目的で観光地を訪れた証(あかし)として、歴史伝統性重視のお土産品を買うという行為です。美味しそうだから買ったのではありません。訪れた証拠として買ったのです。実際に食べたら美味しくなかったということ。

中身はそこら辺にある煎餅や最中、団子、饅頭、クッキーなどのありきたりの品でガッカリするケースです。満足度では、「歴史伝統性」が不満因子として認識される可能性があります。

そこには、業者が歴史に便乗し、顧客志向は二の次という姿勢がないとは言えません。ご当地の歴史にちなんだ名称・ロゴマークをつければ売れるという安易な発想(すいません)があると言われかねません。

二つ目に考えられることは、逆に試買時に、食べる時の「美味しい」期待値が高くなりがちで、実際に食べた時に普通であっても「不満」と認識するケースです。「歴史・伝統のある食べ物だから時間軸の中で皆に愛されており美味しいに違いない」と食前に勝手解釈してしまい、実際とのギャップが大きくなり、不満を感じる場合が想定されます。

特に、観光地では特産品の中で菓子の占める割合が高く、余程の加工・工夫をしないと満足には結び付かないと思われます。不満でも行ってきた証として仕方なく買ってきたという場合すらあり得ます。

ちなみに、試買率の高い商品は、京都八つ橋、白い恋人、もみじ饅頭、長崎カステラ、鳩サブレー、うなぎパイ、赤福餅などで、誰もが納得すると思いますが、満足度が高いかは別なのです。見方を変えれば、訪れる観光客に買ってもらえればいい、常用はあてにしていないともとれます(著者は、「地域ナルシシズムを排すべき」と厳しく主張していますが・・・)。

一方、常用率の高い特産品を挙げると、高野豆腐(和歌山)、鰹のタタキ(高知)、さつまあげ(鹿児島)、讃岐うどん(香川)、有田みかん(和歌山)、愛媛みかん(愛媛)、あきたこまち(秋田)、伊予柑(愛媛)、博多辛子明太(福岡)などです。お分りの通り、物や水産物・加工品が中心で、菓子は入っていません

これらは、著名度(評判の高さ、ブランド名・ロゴマーク、コンテスト受賞実績)や風土依存品質(地域自然環境、品質、効能、成分、鮮度)の影響を受けます。

以上、特産品の中で、特に土産品については「歴史伝統性」を強調しがちになりますが、購入満足度がマイナスとなることを認識しておく必要があります。試買時はプラス、その後の満足度はマイナスというやっかいな「歴史伝統性」に代わり、どんな価値をイメージして商品開発をしたらいいのでしょうか・・・。

試買・常用共通の価値とは

私が出典著書等を参考にしつつ感じているのは、「ある価値の因子」です。それは・・・「くつろぎ」健康・美容効果・心を癒す・季節感を感じる)です。

この経験価値の因子は、試買時も常用時もプラスに影響しますが、その代表的な特産品は果物や水産物であり、まさしく季節感や鮮度を感じるものです。ここで、更なる行為が発生します。それは・・・ 

満足度は買う行為から贈る行為に転嫁する

地域の皆さんが満足し、親せきや友人に贈り相手の満足が期待できるお中元やお歳暮として、季節感のあるみかんや水産物が選ばれる傾向があります。そこでは、健康・美容効果をアピールする特産品も贈答用ギフトにふさわしいと思われれば、選択されるでしょう。

地元客に愛されることが次々に広まっていくスタートになるという基本を改めて認識したいと思います(贈る行為は、送り主のパフォーマンスであり、相手から喜ばれることが第一義で、「自ら食べて美味しいから送る」とは別である、とも考えられますが・・・)。

では、買ってもらい贈ってもらう行為をどう仕掛けるか・・・は、また別の機会に述べたいと思います。 

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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