高原野菜の生産者、37歳の山本裕之さんの話です。
軽井沢町近隣の御代田町と小諸市に2つの会社を持つ経営者です。
先月、私が企画・実施した「売れる農業を徹底的に考える」研修会で講師をお願いしました。勢いがあり、発展途上です。
受講者から反響が大きかったので、写真の使用の了解を得て、話の一部を記します(受講した市会議員たちも視察に行くとのこと)。
まずは、農業に関わるいきさつから・・・
「農業は突然やってきた」
彼は大学を卒業し、人材派遣会社に就職。
ある時、突然、父母に強制連行され、農業をやる破目になります。強制連行の生々しい様子は省略します(笑)。
大事なことは、父親が教えてくれました。
「父親から学んだこと」
レタス他の作物の作り方の基本をしっかり学びました。今も、父親を師匠と呼んでいて、仲がいいとのこと。
さらに、生産に対する考え方を学びました。
父親はコックをしていた時期があり、店の客の注文をとってから作るのがあたりまえ。
しかし、普通の農家は土地があれば、まず作ってしまう。農協の選果場に持ち込めば、売上代金が口座に振り込まれ、それ以上はあまり考えない。
彼は、父親の言葉から「生産してお客様に食べてもらうまでを自らの喜びにしたい」と思いました。
企業理念を「畑から食卓までの幸せの輪を実現する会社」としたのも、うなずけます。
「自ら機会を創りその機会で自らを変える」
やがて、経営を任されます(現在の㈱ベジアーツ社長)。
改めて、経営の基本を学ぶため信州農業MBA研修(県農政部が主催)を受講しました。
そこで、経営理念や経営計画の作り方を学び、先輩の農業経営者からも教えを受けました。
彼は人の話を吸収する力があります。聞く姿勢が素晴らしいのです。 なにしろ講師が受講生に質問は・・・と聞くと、必ず真っ先に手を挙げます。理解したいとの思いが強いからです。
彼の経営で、特に紹介したいのは3つ。
契約栽培と品目の多様性
販売戦略では、大手ハンバーガーチェーンの㈱モスフードサービスと共同出資して㈱モスファーム信州を設立し、その社長に就任しました。
提携を自ら持ち掛け、東京本社に出向いて役員にプレゼンし、新会社設立にこぎつけたのです。契約栽培による経営の安定性と発展を目指します。
一方、扱い品目は偏り過ぎると気象や価格等の変動リスクをまともに受けます。持続するには、多様な品目でリスク分散することも重要です。
各種のレタス・白菜を中心に、ほうれん草・パクチー他、どのような品目が今後注目されるのか、商談会等で需要者の声をこまめに聞きつつ、土壌に合った品目を探っています。
そして人材育成
人材育成は、経営改善と裏表一体です。
利益確保の観点からは、人件費は変動費化する方(季節労働者の雇用)がいいでしょう。
しかし、会社が継続していくには、正社員の確保が欠かせません。
そこで、高品質な野菜作りができるよう業務体制の整備とマニュアル化を進めています。
また、朝礼でのコミュニケーションを大切にし、自主的に業務改善にチャレンジして、社員が成長を感じられるよう「効率化達成と貢献意欲の醸成」の両立を目指しています。
農協が学ぶこと
彼の研修会には、農協職員も参加しました。
農協は、いくつかの課題がある中、彼の経営から学ぶべきは大きく3点と考えます。
父親からの事業継承、大手チェーン店との新会社設立による販売先確保、そして、人材育成です。
農協が、やる気のある生産者たちとどう関わり、ニーズを見出すか。先入観を排除して、今こそ真摯にコミュニケーションを図るべきです。
答えは、必ずあります。
(彼の3人の子どもたちは高原野菜を食べ、ともに元気に育っています)
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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