改正農協法が平成28年4月1日から施行されました。
今後の農協改革については、いろいろな点から注視する必要があります。
農協改革の基本的な考え方は「農協組織の主役は農業者」「総合農協は農業者の所得向上を図ることが基本」ということに異論はないと思います。
そこで、前回からの続きで、上からの系統農協組織を、組合員を最上位に置く「逆ピラミッド型」に転換する考え方を示します(少し長い文章になりますが・・・)。
系統農協の基本構造は「組合員のための組織」
系統農協は、上からつくられた上意下達の官僚的組織という生い立ちを持つにしても、協同組合という組合員組織の仕組みです。
そのもとに各段階の組織が成り立っているという基本構造からして、最上位に置くのに違和感はないと思います(一部の県連・全国連のみなさんは不同意かもしれません・・・)。
この逆ピラミッド型にすることで、系統農協は「組合員のための組織」という基軸を明確化できると思います。
そこで、農協改革論議の中で農協が「組合員のためではなく、組織維持のための組織になっている」という批判について考えます。
当面、この問題への対応が一番重要でしょう。系統農協職員も客観的に振り返る必要があると思います。
「組織維持のための農協」という批判を考える
まず、現行の一般的な組織図を確認しておくと、以下の通りです。
組合員を左側に置き、順に総合農協、都道府県連合会、全国連合会と位置付けています。私が農協組織に勤めていた時は(だいぶ前ですが)、一番下に組合員その上に総合農協、都道府県連合会、全国連合会と上に重ねて系統農協を示していました。
現行の系統農協組織図が示すもの
さすがに、上意下達の組織と非難されかねないので、横展開の図に変えたのではと推測します。横の図なら、系統組織として機能を分担し、効率的で一体的な組織として組合員とつながっていると説明できるでしょう。
しかし、この図からは、「組合員と一体となった」組織とはいえても、「組合員のための組織」とは読み取り難いと思います。
具体的な農協批判は何か
具体的な農協批判は、農家組合員が農協から購入する資材は他業態と比べて割高であり、また農協は組織維持のために組合員から高い販売手数料をとっている、もっと組合員に利益を還元すべき、という主張です。
系統農協組織は、組合員の方を向いていない、組織維持を優先していると批判されます。
なぜ、そう見えてしまうのか、私が思いつくのは3点です(私は、経済事業に直接関わっていなかったので、たぶんに思い込みがあるかもしれませんが・・・)。
組織維持になりがちな3つのわけ
一つ目は、「系統パワー維持」のためです。
農協には、「政治的な力」を持たないとくるくる変わる農政に翻弄(ほんろう)されてしまう、という共通認識があります。
農政は中央官庁が仕切っています。それに対峙するには全国連を含めた系統組織の結束・維持が不可欠との考えです。
そのような系統的なロジックが優先するので、個々の総合農協が全農に対し資材仕入れ値の引き下げを要求する力は弱まるといわざるを得ません。系統組織の結束・維持のためにはしょうがないということです。
二つ目は、農協がコスト構造を変える重要な課題を先送りしてしまう傾向があると思います。それが組織維持に見えてしまうのです。
総合農協が割高な資材の引き下げを行うには、全農からの資材仕入価格が他業態と比べて高いというだけでは困難でしょう。
資材価格の引き下げを要求することは、仕入れ先の全農関連企業の経営改革を求めることにつながりかねません。
さらに農協自身の部門別人件費等の削減にも及ぶ懸念があり、経営陣は自らの経営に影響しかねない引き下げ要求は回避したいでしょう。
高いといわれる価格も、全農が努力した結果なので、組合員や総合農協も受け入れるべき。高くても使いお互いに支え合うのが系統農協であるとの論理から先送りとなってはいないでしょうか。
全農は高く販売したい、総合農協は低く仕入れたいという相反する取引関係の中で、系統組織を維持していくための先送りという意味もあるかと思われます。
三つ目は、系統農協職員による「総合農協の全利用運動」が関係していると思います。
どういうことか・・・。
協同組合は、組合員が利用者であり所有者で、管理し利益を受ける存在です。系統農協職員は主に利用者です。
系統農協職員が大会などで唱和する共通理念として定められた「JA綱領」の書き出しの文言はこうです。
「わたくしたちJAの組合員・役職員は、協同組合運動の基本的な定義・価値・原則に基づき行動します。・・・」
この「わたくしたちJAの組合員・役職員」という記述は、組合員と役職員を並列して位置付けています。
一方、農協法第7条1項(旧8条)は「組合は、その行う事業によってその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とする。」とあります。
JA綱領では、「私たちJAの職員は、組合員に奉仕し・・・」ではないのです。一義的な組合員への奉仕者ではなく、組合員と役職員は「一緒の農協運動者」という位置づけになっていると私は思います。
この立場から、系統農協職員は組合員と同じく総合事業を利用し(特に信用と共済事業)、農政運動も行う「農協運動者」となります。
また、地方のある程度の総合農協職員は農業を営んでいて、正組合員でもあります。
このように、「組合員のための農協組織」は、組合員と同じ「農協運動者である職員のための組織」という性格も有しているといえないでしょうか。
そこには、「組合員に奉仕する農協職員」という意識は相対的に低くなってはいないでしょうか。(ある総合農協では、改めて「組合員への奉仕」を掲げています)
逆ピラミッド型で組合員ニーズに応えよう
以上、述べてきましたが、系統農協組織を逆ピラミッド型にすれば、総合農協や県連合会・全国連合会は個々に経営努力をし、組合員のニーズに応える取り組みを明確化できます。それにより、系統組織のパワーが縮小するとは思いません。
改正農協法は、いろいろな問題を含んでいますが、どう系統農協組織が受け止め行動していくか、地域の大きな関心事となるでしょう。
どこかの総合農協が逆さまのピラミッド図を組合員に示し事業展開を指向するとき、大きな変化が起きると信じます(ある有力な県連合会は、逆ピラミッド型の図に転換しています)。
次回は、いくつかの総合農協の先進事例をもとに、地域における総合農協の事業展開を考えます。
私は、「地域農協」ではなく、あえて地域における「総合農協」という表現をしています。
今後、総合事業が地域において重要な役割を担うと思うからです。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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