紹介本シリーズ②「森林の思考・砂漠の思考」

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この本を読むきっかけは

この本に出会ったのは、今から30年ほど前です。

私は中小企業診断士資格を取得し、30歳代になっていたかな。
勤める金融機関の融資部署で取引先等を診断する機会が徐々に増えてきました。

あなたには正直に話しますネ。
当時、私は診断する際これが問題だ、あれもこれもと問題の指摘が先行していました。分析し課題を見つけ解決策を提言するけれど、総花的でした。

機械的な型にはまったアプローチで、「切れ味がない」と自分でも感じていました。

自分にしかない独自性をどう出すか、試行錯誤が続きました。そんな時、この本に出会い、夢中で読んだ記憶があります。

そして、大きな刺激を受け、私なりに物事のつかみ方が変わったように思います。今でも時々読み返しているんですよ。

本の内容を要約してください

簡略していうと次の通りです。
〇人間の思考方法は、森林的思考と砂漠的思考の二つに分けられます。

〇乾燥した砂漠での生活で必要不可欠なのは、水場であり、どっちに行くかで生か死を分け、常に決断を迫られます。

〇砂漠的とは、鳥の眼を持って上空(天)から下を眺め水場を求める思考です。
唯一全てを知るのは絶対的な神であり、その存在が天地を創造したという一神教が成立してきます。代表的なのがキリスト教です。

〇一方、森林は湿潤地帯であり、食べるものには困らない。そこに生活する人間は何を食べるか逆に迷います。
そこでは生か死を区別する必要はなく、全ての物はお互いに相まって存在する、という考え方です。

〇これが仏教であり、森林的とは視点が地上の一角にあり「下から上を見る」姿勢です。
そして、実が朽ちて土に帰り、また芽生えてくる循環的な輪廻転生の概念も加わってきます。

以上を一言でまとめると、人間の思考は歴史的・地理的環境である「風土」を通じて形成されてきた、となります

もちろん、一人の人間は上からと下からの両方から観る視点を併せ持っていますが、どちらが強いかということです。

この本は、森林の思考・砂漠の思考という座標軸を持ち、その中でキリスト教、ユダヤ教、イスラム教、ヒンズー教、仏教他、マルキシズム、毛沢東思想も位置付けています。

私はその壮大な視点によって、すっきりとした見通しを持つことができました

他に印象に残ったことはありましたか 

心に残っているのは、砂漠的な思想が拡大していくにはある動物の存在が欠かせないということです。おわかりでしょう。その動物とは・・・

ラクダです。この動物は陸上哺乳動物の中で最も高温と乾燥に抵抗力のある動物であって、「ラクダの家畜化」に成功したことは人類史上の大事件であったとの指摘です。なるほどとうなりました。

この本はあなたの仕事にどう役立ったのですか

私にとって、この森林の思考・砂漠の思考は、診断士の仕事に大いに役立ちました。
診断する視点として、砂漠の思考は、上から鳥瞰的に見る総合的な視座を与え、森林の思考により自分の周りを接近して分析的に見るイメージを持てました。

「総合と分析という方法論」を、この本によって言葉の次元ではなく本質的に理解することが出来たと自分では思っています。

読み返して、改めて感じたことは

例えばアニメ映画で、宮崎駿作品をよく見ますが、欧米でもヒットしています。それはどうしてだと思いますか。私なりの解釈をいうと

宮崎作品は、「風の谷のナウシカ」「魔女の宅急便」や「天空の城ラピュタ」他、ほとんどの作品に共通していることが有ります。皆さんも感じているでしょうか。
共通点は・・・

上空から地上を見下ろす映像を多用している」ことです。上空が主人公の活躍するメインの場なんです。

これが砂漠の思考を持つキリスト教の人々に受け入れられている要因の一つと私は考えます。(外国の方と意見交換していないので私の思い込みかも・・・)。

マーケティングにも役立つことがありますか

すぐ思い浮かぶことですが、マーケティングミックスという製品・価格・販売経路・販売促進の4つの要素がありますが、どう関連付けるかがポイントです。

そこでは総合化の視点が重要で、個別に考えてもダメです。砂漠の思考が必要で、鳥の眼ですネ。

個々には、顧客データ等を収集しその変化を読み取る分析的な手法が欠かせません。森林の思考であり虫の眼です。現実には、両方をうまく使うことが求められます。

最後に何かひとことを

本書は読み易いので、是非あなたに読んでもらいたいです。
地理的・歴史的な立場からの「風土」という視点が共通していることを理解いただき、豊かな発想を培ってもらえればと思います。

私がもっているのは古本で昭和53年発行・平成元年第36刷です。長く読まれています。

この本の著者・鈴木秀夫氏は、東京大学の地理学の先生です。

同じ地理の先生ながら、まったく違ったアプローチで「風土」を見つめ産業のあり方を説いた大正時代の地理教師の著書を次回紹介します。

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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