あなたは「商品にストーリーが欠かせない」という言葉、聞き飽きていませんか。
ストーリーありきで、バイヤーやプロらしきアドバイザーからいろいろ厳しい意見をもらい、めげてしまうつくり手を何人も知っています。
インパクトのあるストーリーをつくれない自分を責め、頭を抱えます。そして、ストーリーなんてなくても美味しければ売れる、と開き直るのがおちです。
私は小さな会社と大きな会社ではストーリーづくりが違うと思うのです。そもそも消費者の心の琴線に触れるストーリーとは何か。
簡潔にいえば・・・「どこにこだわり、どんな心意気で作ってきたのか」です。
私が関わっている酒造会社「岡崎酒造」の話をします。
パンフに記載された日本酒の基本説明は
・創業:上田市内で営む創業350年余りの老舗。
・主要銘柄:「信州亀齢(きれい)」、菅平水系の地酒。
・特性:昔ながらの手造り。酒造好適米は長野県の開発品種。住み付き酵母を活かした伝統と技の品格。
・棚田米:棚田は栽培適地(風通し、日照時間、寒暖差)で、自らも栽培。
・受賞歴:関東信越国税局酒類鑑評会「吟醸部門」で最優秀賞(第一位)受賞。
これは、あくまで説明であり、ストーリー(物語)とはいえません。特に、造り手の心意気は書かれていません(書きにくいのです)。
一方、先日、東京で岡崎酒造さんの「棚田米による酒造り」を記録した映画の上映会を催しました。
日本酒や料理とセットのイベントで大変盛り上がったのですが、上映後のトークセッションで、杜氏の岡崎美都里さんがこんな話をされました。
「小さな酒蔵ですが、3人の子育てをしながらの酒造りは大変でした。最低限の事しかできず、逃げ出したいと思ったことも・・・。
主人は都庁に勤めていましたが、酒造りに入ってくれて助かりました。受賞したらそれを守っていけばいいと私は思いますが、主人はどんどん造り方を変えていくんです。
この改革を進める動きについていけず衝突したことも。2人の主張がぶつかり合いながら、醸(かも)してきたのが今の酒です。」
続いて、社長である夫の謙一さんがフォローします。
「受賞したからといって留まっていたら守りになってしまう。新たに造っていくという攻めの姿勢が大切。飲み手の嗜好はどんどん変わっていくんです。」
まさしく、夫婦2人による酒造りは「伝統と革新のせめぎあい」というストーリーがあったのです。聞いていた30人弱のお客さまにとって付加価値の高い「上質のストーリー」だと思います。
小さな会社の戦略は、熱狂的な一定のファンをつくり、リピートしてもらい深く関わってもらうことです。話を聴いた会場の皆さんは、自ら他の人に勧める営業マンの役割を果たしてくれるでしょう。有難い存在です。
小さな会社のパンフに書けない上質のストーリーは(謙虚な造り手ほど公には書きにくいのです)、今回のように直接造り手が飲み手と会して伝えるか、フェイスブックでの発信が有効と思います。
造り手と飲み手の信頼関係があって初めてつくられる「本音のストーリー」だからです。
お酒は「造る人の人柄が出る」と言います。今の平気でウソをつく人たちに酒は造れません(微生物が嫌がります)。
謙一さんや美都里さんのような真摯な人柄から生まれる酒を飲みたい、と多くの人は思うでしょう。
この岡崎酒造は、上田市内の柳町通りにあり、北国街道の風情を守っています。先月、市内の5つの酒造会社も参加して地域で「発酵祭り」を行いました。
謙一さんの「酒蔵みんなで良くなり、地域を盛り上げていこう」という考えは、上田の違う日本酒が集まってこそできることであり、「一人はみんなのために」が地域を創ると思うのです。
もちろん、上田市も強力に支援していきます。
※岡崎酒造のHP
(関連記事:7.2.17 『こんな「ぜいたく」』
7.6.22「ストーリーにマイナス情報を活かせ①」
※ 過去のブログ記事はマーケティング本形式の「農業の売れる仕組みづくり」
https://agri-marketing.jp/masayuki-hasegawa-book-summary/
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この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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