上田市内に「信濃デッサン館」という美術館があります。
窪島誠一郎さんが館主で、村山槐多や関根正二らの夭折の画家たちの絵を展示していま したが、昨年から無期限休館となっています。 そんななか、村山槐多の命日にちなみ、最後の「槐多忌」が2月23日、24日、25日の 3日間開催されました。
その期間、縁あって、私たちが応援する市内の大豆生産者グループに地元の大豆(品種「ナカセン ナリ」)を使ったカフェを開いてほしいとの話しが来たのです。
直前の依頼に戸惑いながらも、大豆生産者たちと地元住民交流館で定期的に大豆料理教室を開催している家庭料理研究家Oさんが思い切って引き受けてくれました。
Oさんは大変なプレッシャーがあったと思います。
というのも、窪島さんからの依頼であることもさりながら、間に入って話しをつな いでくれた日本を代表する料理人の一人であるKさん(私の友人)から託されたからです。
期待に応えなければというプレッシャーです。 生産者たちと話し合い、時間や手間の制約、カフェの大きさ等から回転重視の軽食メニュー にしました。
〇三色豆茶(ナカセンナリ+青豆+黒豆:コーヒー色)
〇上田ブラウニー(Oさんの上田市スイーツコンテスト最優秀賞受賞作品)
〇大豆のトマト煮込み
〇みどり大根と味噌添え
〇きな粉餅


私が食してみて、どれも美味しかったのですが、特に「三色豆茶」は色がコーヒーそっくりで、かつ甘く てやさしい香りがして、気に入りました。「上田ブラウニー」「きな粉餅」「トマト煮込み」を一緒に食すると、 何とも言えない優しさが心に湧き起こり、幸せな気分になります。
私は3日間通いましたが、「昨日来たが三色豆茶が美味しくて今日も来た」という何人ものお客 に出会いました。私もつなぎ役の一人としてとっても嬉しかったです。 最終日の席を離れる時、家庭料理研究家Oさんが私の肩口でこっそり話してくれた言葉に 深く感じ入りました。彼女のことばとは・・・。
「長谷川さん、1年前、K先生と一緒に居酒屋で懇親会したのを覚えているでしょう。 私のメニュー提案をお店が取り上げ、K先生に食してもらった時よ」
私は「よく覚えているよ」と返したところ、思わぬ言葉が続きました。
「K先生は帰り際、私の耳元で“こんな調理法では食材がだいなしだ”と言ったのよ。
ショックだった。でも、それからK先生のいう食材の本来の味を活かし邪魔しない、 調味料にコダワル(化学調味料は使わない)料理を心がけるようになり、私の料理は変わっ たと思う」
「今回、K先生からカフェをやってみたらと誘われ、あの時のリベンジの時が来たと思った」 「そして、やっと昨日K先生に食べてもらい、“いいじゃねえか”と言ってもらえたのよ!」
少女のように目をキラキラ輝かせながら晴れやかに話す彼女を見て、私は頷きながらこう思ったのです。
プロの料理人がお忍びで訪ねる喜寿のKさんは、これから料理人を託す存在として、 敢えてOさんに厳しい言葉を発し突き放したのではないか。
その後、Kさんの作る料理を手伝う彼女を何度か見る中で、“よし、機会を与えよう”という 気持ちになったのではないか。
その厳しい試練の時を経て、彼女にチャンスが巡ってきたということではないかと思います。 大豆生産者と一緒に食の楽しさを伝える姿勢も含めて。
「準備をした人に機会は訪れる」といいます。 さらに、「きびしさは人を選ぶ」ということでもあるでしょう。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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