あなたはお客様の「喜ぶ顔」が見たいか

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現代のマーケティングの原則は、「顧客志向」です。
マーケットインですね。マーケティングとは「売れる仕組みづくり」であり、お客様が望む(喜ぶ)ことを提供すれば売れます。

しかし、そこでは、生産者(提供者)自らが「お客様の喜ぶ顔を見たい」という強い欲求やお客様の表情から読み取る力が必要です。

問題は、当たり前ですが、顧客という「集合体の顔」は存在しないということです。 ひとりひとりの喜ぶ顔を見るしかないのです。 ドラッカーの言った「一人の顧客を満足させること、創造すること」が重要です。

「顧客を創造する」の原文は”create a customer”です。customersではなく a customer 。ドラッカーも、あくまで顧客を一人一人の集まりとしてとらえていました。

落語家は、観客全体を見渡しながら、一人のお客様に語りかけるように話すと全体にも伝わるといいます。ニュアンスは似ていますね。

さて、肝心な話にはいります。
「お客様の喜ぶことをキャッチする、読み取る」力とは、一言でいうと「感受性」ですね。さらに、感受性が豊かな人(生産者) は、お客様の喜ぶ顔を見たいために果敢に行動し仕掛けます。

ある花屋は、誕生日プレゼント用の花なら紙とペンを用意し、思いをカードに記入してもらい、添えます。購入されたお客様や贈られた方の喜ぶ顔を見たいために、仕掛けるのです。

旅館の事例では、お客様に「ご無事でお帰りいただきたい」「またお越しいただきたい」との 思いから、手を振ってお見送りした後、すぐお客様の自宅あてにFAXします。

「ご無事でお帰りになられたでしょうか。道中の天候が気になっています。至らぬ点が少なからずあったかと思いますが、お許しくださいませ。またのおこしを社員一同お待ちしております」

疲れてやっと家に戻ったら、旅館から上記のFAXが届いていた。お客様にとってはサプライズ で、「行って良かった」という表情を浮かべるのではないか、と想像し行動するのです。

しかし、以前私が旅館指導で関わった経験では、旅館経営者30人中、このFAXお礼を実行した方はたった1名(そこは繁盛していますが)。

ほとんどの人たちが「やります」といいながら、実際はやりません。出来ない立派な理由を自分の心にたくさん並べて、お客の喜ぶ顔を見たい、キャッチしたいという感受性を封印します。

お客様が通常の対応でも満足すると敢えて思い込み、サボタージュするのです。

極論を承知で言いましょう。
「感受性は自分に厳しく、人一倍努力すること」でしか磨けません。そこからしか道は開けない。

最後に、私も自らに言い聞かせている詩があり、紹介します(有名な詩なのでご存知の方 も多いでしょう)。
お客様等からお叱りを受けた時や、へこんだ時に読み返すと、強烈に心に突き刺さります。 そして、自らを奮い立たせる詩です。

茨木のり子 作 「自分の感受性くらい」

ぱさぱさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを 友人のせいにするな しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを 近親のせいにはするな なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを 暮らしのせいにはするな そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を 時代のせいにはするな わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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