2か月前の3月後半、小学校は春休みになり、私は地元の二つの児童館館長から子供たちに1時間ほど話をしてほしいとの依頼を受けました。
そこで計100人にある本の話をしました。 どんな本を紹介したのか。以前小学校の読書時間で読み聞かせた中で反応の良かった「ざんねんな生きもの」シリーズ3冊(今泉忠明監修、高橋書店)から20ほどの生きものをピックアップして、絵を拡大して黒板に張り、キーワードの一部を隠して答えさせながら進めました。
相手は1年生から4年生が中心で、熱中してくれました。こんな話から始めたのです・・・
みなさんは、強い生きものが生き残っていくと思っていませんか。必ずしもそうではありません。ざんねんな生きものが生き残ることもあります。たとえば、昔はいろいろな種類のナマケモノがいました。大型化した体長6メートルの種は無敵でした。
しかし、人類が狩りをした結果、絶滅してしまった。一方、木の上でじっと動かない小さな種だけは生き残った。その生き残りの子孫が今のナマケモノです。
小さくて動かない残念な能力のおかげで、人間に見つからず生き残ったのです。 弱くても生き残れます。子供たちはジーと聞き入っています。
続けて、20くらいの生き物を話しましたが、特に子供たちの反応があったのは「かわいい動物」として代表的なコアラとパンダ・・・
■「コアラはユーカリにふくまれる〇〇のせいで一日中寝ている」
〇〇に何という言葉が入るか手を挙げてもらうと、いろんな答えが出ます。 水、ねむりぐすり・・・正解は「猛毒」

エーと子供たち。コアラの主食のユーカリの葉には、青酸やタンニンなどの防虫剤にも使われる猛毒が含まれます。他に食べる動物がいない毒入り葉っぱを食べられる体になったことで、コアラは生存競争に打ち勝ったのです。
当然、解毒のためのエネルギーが必要なので、それに振り向けるため一日中寝るしかなかったのです。残念な生きものとは、「生き続けるため一生懸命なのに、どこか残念な生きものたちのことで、愛おしい存在」なのです。
■「パンダが一日中食べ続けているササの葉にはじつはほとんど〇〇がない」
・・・正解は「栄養」
パンダはクマの仲間で雑食性のため、動物の肉や果物も食べれます。しかし、大昔にほかのクマなどに住む場所を追われ、ササくらいしか生えない高山で暮らさなければならなくなりました。
つまり、パンダは生存競争に負けた結果、消化の悪いササを一日かけて大量に食べるはめになったのです。動物園でササを食べてしまうのには、悲しい過去があったのです。「どこか残念な生きもので、愛おしい存在」です。
子供たちが熱中し、真剣に聞いていた動物たち。かわいい動物たちもつらい思いをしていて、でも表情からはわからない。このような動物たちを知ることで、強くなどない、かえって弱いし残念な能力だけが残っているけど、だから生きられる。
平成は、ごまかしや忖度が横行し「選択の自由」「流動化」や「自己責任」が声高に叫ばれ、リスクを個人にのみ負わせ、格差拡大で生き難い時代ともいわれます。
そのとき、子供たちは「強いものだけが生き残るのではない」「残念な生き物が生き残ることもある」という動物の不思議さに思いを寄せて、「自分らしく生きる能力」を芽生えさせているのかもしれません。
付け加えれば、この本は思いのほか大人にも人気です。
そう、自分の生き方を動物に重ね合わせ、残念だが愛おしい存在として自分を認め、また生きる勇気を残念な動物たちからもらっているのではないでしょうか(私はそうです)。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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