ニューヨーク公共図書館とマーケティング

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知人の首長が今一番見たい映画として「ニューヨーク公共図書館」をあげました。遅ればせながら、昨日鑑賞。3時間26分のロング上映で、途中休憩が入る長丁場。

見るものに多くの示唆を与える優れたドキュメント映画で、是非あなたにも見てほしい。映画の内容は見てもらうしかないのですが、私が感じたことをいくつか書き記します。

予算規模370億円、来館者数1,700万人、地域分館88を含め計92施設、職員数3,000名の世界屈指の規模。

しかし、公立ではなく、あくまで民間の独立法人。市の助成が半分と民間からの支援等で成り立っています。

ひと言でこの図書館をいえば、登場するある人物の言葉「図書館とは本の置き場ではない。図書館とは人」に尽きます。色々な人たちの関わるシーンが次々と展開されます。

図書館でやっていることは、観た限りであげると、司書たちの電話質問への回答(年間3万件)、点字・録音本を制作し貸出(専門図書館)、著名人のトーク、読書会、親子読み聞かせ教室、ボランティアによる子供への学習支援、さらに・・・

ネット環境の整備(ネット接続器具の貸出等)、パソコン教室、シニアダンス教室、演奏会、就職説明会、障害者のための住宅手配サービス、ディナーパーティー、ファッションショー他、信じがたいほど幅広いのです。

図書館は、限られた財源のなか、利用者の多様なニーズにどう応えるのか。
映画では、電子本のニーズが高まっていて予約待ちの状況、どこまで対応するか。専門書の取り揃えは等の議論の場が映し出されます。

取り巻く様々な制約(予算他)の中で、事業範囲をどこまで広げるかという問い。基本は公共図書館がニューヨーク市民の「コミュニティセンター」機能を果たすことにある、と推測するのですが。

幹部たちは時間をかけて議論し、合意を目指します。
その粘り強い議論を積み重ねるやり方は、昨今の日本の会議で目立つ(と私は感じますが)議論のプロセスを一方的にはしょり、結論を出すやり方の対極にあると思います。
「公共」の担い手の矜持と思います。

そこでは、目先の利用者ニーズにのみ目を奪われるのではなく、10年後に「図書館の使命」から判断したと誇れるような議論をしたい、という館長の思いが語られます。

マーケティングとは、顧客を創造する活動です。

それは、図書館が産み出す「価値」を提供し、顧客(利用者)の満足度を高める活動といえます。

最初に述べた図書館の92施設の多様な事業は、利用者の求めに真摯に向き合い図書館の価値を提供した結果であり、各調査でも多くの人が「図書館なしでは今の自分は無かった」と公共施設としてトップクラスの評価を与えています。

映画を観終わり、公共図書館の定義は人々が幸せに暮らすための情報拠点」ではないかと思います。

ニューヨーク公共図書館は、「公共」として誰にも開かれ利用され幸せになれる関係づくりを追求している場です。そして、映画の登場人物は皆、パッション(情熱)の持ち主です。

日本では、地域のコミュニティセンターといえば公民館を想起するでしょう。しかし、この映画のように図書館機能がもっと見直され、生涯教育を縦軸に、様々な事業の情報拠点として総合的に考えられてもいいと思います。

観終わって、周りを見たとき、明るい気持ちになりました。
映画館の観客の多くが若い女性たちだったからです。時代の変化を感じ取り、一緒に方向を見出していきたいですね。

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川戦略マーケティング研究所所長

1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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