10日ほど前、長野県農業大学校畜産実科でマーケティングの講義をする機会がありました。
2日間にわたる計6時間の講義でしたが、その中で話した「心理的財布」について、今回ふれます。マーケティングでは重要な考え方(理論)と思うからです。
県内の佐久市に養鶏業を営む(有)ブラウンエッグファームという会社があり、「ちゃたまや」という直営店を経営しています。県外からもお客が訪れる繁盛店。
その店の目玉商品・商品名「えるごらん命」について、生徒たちとこんなやりとりをしました。
「この卵は、ある大学と当社が共同開発したもので、天然抗酸化物質「エルゴチオネイン」を豊富に含む鶏卵の開発に成功、世界に先駆けて市場に出したものです。
「エルゴチオネイン」は、きのこなどがつくるアミノ酸の仲間で、抗酸化力はなんとビタミンEの7000倍。
では、1パック10個はいくらで売られているのでしょうか。
スーパーで普通に売られている卵の価格は様々ですが、平均価格は170円ほどとして考えてみてください」
学生たちに思う価格を黒板に書いてもらいましたが、あなたの思う価格はさて・・・?
学生たちが板書した価格は、300円~5,000円。
「大きなひらきが出ましたね。5,000円の価格でも買いたい人がいる一方、300円という価値しかつけない人もいる。
店での売価を言います・・・1,250円です(あなたの予想はどうでしたか)。平均170円の7.4倍です」
ここで私が学生の皆さんに説明したいことは、消費者が商品を購入する際、『心理的に複数の財布を持っている』という理論です。
ファッションには万単位でも気にしないで買うのに、日常の食費は10円でも削っている人っていますよね。
土地やマンションを買う場合、10円の差などありえないでしょう。それは商品に対する「心理的財布」が違うからです。
「なぜ、皆さんはばらばらな価格をつけたのか。私が考えるには、世界に先駆けてビタミンEの7000倍の抗酸化力を持つこの卵に5000円の価格を付けた人は、『美容・健康財布』(私の呼び方)から出しているのではないか。
その時、類似する商品は通販の健康食品や自然食品・機能食品等で、比べてけっして高いとは思わない。
1個500円は、2日に1個食べるなら1日250円換算。病気予防、健康維持のためなら食べたいと思う人がいるでしょう。1個125円なので、“安い”。
300円を付けた方は、健康にはあまり関心がない、あくまで食費のカテゴリーから普通の卵よりも栄養があるので170円の1.8倍(300円)を付けたと私は思います。
また、この卵を買う人は、卵という食材=モノを買っているのではなく、自分が『エルゴラン命』を食べて「健康で元気に活動しているシーン=コト」を(想像して)買っているといえるかもしれません。
そういう方たちをターゲットにしていると思います。
この卵のパッケージには他の卵商品とは違う理由をしっかりと書き込んでいます。
開発した大学の先生の解説付きのチラシも入っていて、「卵=安価な食材」というカテゴリーから、「美容・健康」食品というカテゴリーへ立ち位置をシフトさせているのです。
この卵は「美容・健康財布」から買う高付加価値なブランド食品としてますます注目され、人々の幸せづくりへの期待が膨らみます。
この会社の消費者に向けた姿勢=明記されている会社の事業メッセージ(思い)から私はそう感ずるのです。
明記されていることばとは・・・「卵を通じたしあわせづくり」 です。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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