上田市で初めてのワイナリーは、シャトー・メルシャンの「椀子ワイナリー」である。
2003年にブドウ畑(椀子ヴィンヤード)が開園し、昨年9月に29haほどの畑の中心に念願のワイナリーがオープンした。
そして、まだ1年も経っていないというのに、驚きの情報がもたらされた・・・
【驚きの情報】
7月13日に世界最高のブドウ畑を選ぶ「ワールズ・ベスト・ヴィンヤード・アワーズ2020」のトップ50が発表され、ナナント「椀子ヴィンヤード」が30位に入ったのだ。
日本のワイン産地がトップ50に選ばれたのは初で、アジアからはインドの1軒とメルシャンの計2軒が選ばれたが、メルシャンがベストヴィンヤードともなった。
所在地の上田市として、また千曲川ワインバレーとして、さらに信州ワインバレーとしても快挙である。
ワイン造りの歴史が浅く、世界的な知名度も高くない日本のワイナリーがランクインしたのは、世界を旅して回るワイン専門家が日本をワイン産地として認めたということだ。
【なぜ選ばれたのか】
椀子ワイナリーから眺めるブドウ畑は、360度見渡せ、景色は素晴らしい。しかし、このヴィンヤードはワイナリーがオープンして間もないし、なぜそこまで評価されたのか。
報道記事によると、当ヴィンヤードを牽引してきたチーフ・ワインメーカー安蔵光弘さんは「景色がよく、ワインメーカーが畑まで案内する丁寧さが評価されたのかもしれない」と語る。
安蔵さんは昨年、イギリスやアメリカの専門家たちを案内したが、海外にもその魅力が伝わったのだろう、と記事は書いている。
世界的な影響力のある海外の専門家たちを納得させた「その魅力」とは何か。
安蔵さんは、フランスのボルドー大学ワイン醸造学部に学び、経験も知識も豊富。
それも貢献しているだろうが、さらに何かあるはずと私の胸のモヤモヤは晴れない。
安蔵さんに何を話されたかと聞くことなどとてもできない。
ならば、今までに何回かお会いしたことがあるので、何かしらの手がかりを思い出せないかと、しばし沈思黙考。
すると、3年前に千曲川ワインバレー連絡協議会(近隣の市町村で構成)のイベントで安蔵さんに講演してもらったことがあった。私がお願いしたので覚えていたのだ。
たしか当時のUSBメモリに記録したレジメが残っていると思うのだが、探していくと・・・あった!
【私が気になった安蔵さんのことば】
「千曲川ワインバレーの可能性とこれからの戦略」と題するレジメを読んでいくと、ある文章に出会った。
「海外のワイン産地について」の説明で、新興産地の共通ポイントをあげている。
・最初に桁外れのことを始める人がいる(直感、無謀、挑戦)
・最適と思われる品種に絞る
・高品質のワインを数カ所のワイナリーがつくり、海外のメディアが驚く
・第二世代が参入し、産地の層が厚くなり、世界的に認知される
そして、「海外のワイン産地は努力をしている」と述べる。
「天候と土壌に恵まれているから、良いワインができる」というほど単純ではないと。
人がヴィンヤードに積極的に関わり、世代をつなげてこそ、高い価値を生み出すということ。
【メルシャンに流れる思想】
そこで、私はおもむろに本棚からある本を取り出し、読み返してみた。
麻井宇介著「比較ワイン文化考」。
シャトー・メルシャンの工場長、理事であり「現代日本ワインの父」といわれた方だ。
この本は、私の勝手な解釈ではこんな内容を含んでいると思う。
「ワインの銘醸地とは、はじめから銘醸地ではない。作り手が自然に働きかけ、飲み手が評価するという、人がつくりあげていくものだ。」
今回の、椀子ヴィンヤードが世界30位にランクされたのは、唐突ではない、と私は思う。
麻井さん、そして安蔵さんに代表されるシャトーメルシャンの方たちに通底する「ヴィンヤードに対する思想」があるからだ。
これこそ、海外の専門家が納得した「源泉」と私には思えてならない。
「ワインの銘醸地とは、はじめから銘醸地ではない。人がつくりあげていくもの」
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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