お盆前の8月12日、上田市内にある棚田でユニークな催しが行われた。
この稲倉の棚田は、21年前に「日本の棚田百選」に選ばれ、保全委員会が発足し維持されている。標高640m~900mに30㏊で780枚ほどの棚田。
近年はオーナー制度により首都圏からの応募が急増、地元民との共同で田植えや稲刈り他の作業を楽しんでいる。
コロナ禍下、オーナーたちが棚田に来れないので、こんな催し(実際は祭)を企画した。
【「ししおどし」祭】
〇目的:里山に囲まれた棚田では、稲穂が実るとイノシシによる食害がある。秋を前に追い払い、かつコロナ禍の終息と五穀豊穣を願うもの。竹筒の松明を持ちあぜ道を800m練り歩く。
〇スケジュール:松明づくり、竹パンづくり、オカリナ演奏、ほたる火設置、発酵弁当「艶御膳」提供、吹奏楽演奏、「ししおどし」開始式、松明での練り歩き、打ち上げ花火で終了。
保全委員会のメンバー中心に、昔からの農業文化を意識しつつ、新たに未来に向かって出来ることを考え、ユニークな祭りにいきついた。
ただ、残念ながら9割を占める首都圏オーナーたちには参加を控えてもらい、県内オーナー他で規模を縮小して行ったのだが。
お祭りの詳細は、ネットにアップされるだろう。このブログでは、私がこの祭りに参加して感じたことを記したい。
それは、今まで言い続けている「コロナの時代は地方の時代」を改めて確信したことである。
【多様性こそ活力】
このお祭りを支えているのは、棚田保全委員会。特にリーダーの委員長・久保田さん。
彼が方向性を示し、外からの多様な人材を受入れまとめている。
彼の片腕は、県外から地域おこし協力隊員として棚田保全に関わり、任期終了後も実行部隊の最前線で活躍する事務局長の大山さん、30歳代の若者。
実行組織が緩やかに、かつ強固な思いを共有してまとまっている。
そこに、「ししおどし」祭開始式で、口琴(口にくわえて指でひく楽器)を奏で、独特のシャーマニックな儀式を表現した女神役の通称「アヤコ村長」が加わる。彼女は、静岡県出身で縁あって棚田に関わる不思議な女性だ。
参加者が松明を持ち、練り歩くときに声を合わせて唱えることば
「しし神よ かえりませ 田の神よ まもりませ」
を声を楽器に見立てて創り、100年続くようにとの思いを表した。
楽器演奏は、上田市民吹奏楽団やオカリナ奏者で、普段は棚田との関わりは全くない。異空間での非日常の演出。
さらに、この地に極力こだわったのは、参加者に提供された女性料理研究家・王鷲さんによる発酵弁当「艶御膳」の100%地産地消化。
野菜は、この地域の農家から調達し、調味料は上田で造られた味噌、酒、酒粕、麹等。
米は当然棚田米。最高のぜいたくで、美味しい。
いろいろ個性的人材がお盆前の棚田に密を避けつつ集まり、一夜限りのユニークな祭りは、夕闇の中、幻想的な雰囲気に包まれつつ無事終了したのである。
そこから、コロナの時代を見つめてみる。
【コロナの時代から生まれるもの】
田舎という「自然と歴史の地域資源」に恵まれた場で、そこに生きる人たちをまとめ統率する長(おさ)の存在が重要だ。
地域に暮らす人たちは時間軸を持つ共同体を形成しており、棚田保全委員会も、前身から数えれば20年を越す。
その共同体に、外部の個性的な人たちが交わる。あたかも磁力で引きつけられるように。
起こることは、多様な人材の「個性排除」ではなく、オープンな雰囲気による多様な人材の「個性発揮」から生まれるパワーだ。
私は「ししおどし」祭に参加して感じたのだ。
コロナの時代に、田舎の自然という大いなる存在の中から生まれてくるであろう動きを。
時間軸のもと形成された田舎の共同体に、多様な人たちが引き寄せられ、自然を舞台に存分に個性を発揮する新たな動きとは・・・V²
「バラエティ イズ バイタリティ」
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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