馬とネギ

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ネギづくり生産者Kさんの話。

Kさんは68歳で自営業(プレス加工)を辞め、近所の畑を借りてネギづくりを始めた。

きっかけは、知人から、近くのU市のラーメン店がネギの生産者を探していると聞き、出会ったことだ。

一方、KさんはU市の乗馬クラブに入っていて、馬の顔を見ると嫌なことを忘れる。
孫や近所の子供を馬に乗せるのも大好きだ。

馬糞は自由に手に入り、軽トラで畑に入れて土作りに役立てた。しばらくするとホクホクの土になった。

ラーメン店主からは、柔らかくて甘いネギをのぞまれ、品種をいくつか試し、作り方もネギ専門農家に聞きに行き、試行錯誤を繰り返した。

結果、お客さまから「ラーメンに合って、このネギが美味しい」という高評価を得るに至った。

それはKさんが自営業時代、不良品を出すと取引中止になりかねず、相手ののぞむものを作るのはあたりまえ、という意識が役に立ったのだ。

Kさんは、電話で注文があれば、軽トラですぐ畑に行きネギを持って行く。店主からは感謝され、信頼関係が出来た。

店主は、Kさんが凝り性で夏の日も朝から晩まで畑で精魂を込めて作っていることを知っており、単価を徐々に上げ、報いたいと思っている。

Kさんは、乗馬クラブの若い大学生たちと話したり、一緒にお酒を飲みおごるのが好きだ。

彼らにラーメンをごちそうしたいと心待ちにしていた。 ネギが美味しいといってもらえれば生きがいになると。

そして、ようやく大学生にごちそうすると約束した日の前日。

日焼けしたKさんは畑から帰り、いつも通り風呂に入り食事をし、床に入ってテレビで大好きな野球を観つつ寝た。

そして、その夜、静かに息を引き取ったのである。

学生たちは急な出来事に大きなショックを受けたが、告別式でKさんに別れを告げた後、皆でラーメン店に行った。

器の中でラーメンに寄り添うネギは、本当に甘くて柔らかく噛んでいて心にしみた。

Kさんの笑顔と馬の優しい目が浮かび、学生たちのこれからを応援しているように感じたのである。

以降、乗馬クラブ出身の学生たちは社会人になっても年に一度、このラ-メン店に集まることが恒例となっている。

食べるラーメのネギはもうKさんの作ったネギではないけれど、名前をつけて愛着をもっ
ている。

彼らが勝手に呼んでいるネギの名前は・・・・ 「馬さんありがとうネギ」

この記事を書いた人

長谷川 正之
長谷川 正之
アグリフード(風土)アドバイザー

長野県の農産物統一ブランド「おいしい信州ふーど(風土)」を創設し中心となって推進。また信州6次産業化推進協議会副事務局長として、地域6次産業化を主導。H28年3月をもって任期満了し、地域創生を支援するアグリフード(風土)アドバイザー業務を開始する。長野県内で幅広いネットワークを持つ。現上田市農政課職員(非常勤嘱託・元長野県農政部職員・中小企業診断士)
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