毎年12月、地元小学校で「朝の本の読み聞かせ」に関わっている。
今年は6年生に、ある国の大統領のスピーチ(絵本)を読んだ。
2012年、ブラジルのリオデジャネイロで国際会議が開かれ、環境が悪化した地球の未来について、話し合ったのだ。
会議の終わりのほうで、南米の国ウルグアイのムヒカ大統領が演壇に立った。
質素な背広にネクタイ無しのシャツ姿。
そう、かれは「世界で一番貧しい大統領」。
なぜ貧しいのか。給料の大半を貧しい人のために寄付し、大統領の公邸には住まず、町から離れた農場で奥さんと暮らす。
花や野菜を作り、古びた愛車を自分で運転して大統領の仕事に向かう。
会場の人たちは、小国の話に関心はなさそうだったが、演説が終わった時、大きな拍手が沸き起こった。
要約するとこんな話・・・・
今の文明は、私たちがより便利でよいものを手に入れようと様々なものを作り、世の中は驚くほど発展しました。
しかしそれによって、モノをたくさん作って売ってお金を儲け、もっともっと手に入れようとする、そんな社会を生み出したのです。
人より豊かになるために、情け容赦のない競争を繰り広げる世界では、誰もが持っているはずの、家族や友人や他人を思いやる気持ちは、どこにいってしまったのでしょうか。
目の前にある危機は地球環境の危機ではなく、私たちの生き方の危機です。
人間は、今や自分たちが生きるために作った仕組みによって危機に陥っているのです。
そこで、私たちの生き方がこのままでよいのか、考え直さないといけません。
古代の賢人エピクロスやセネカは、次のように言いました。
「貧乏とは、少ししかもっていないことではなく、限りなく多くを必要とし、もっともっとと欲しがることである」
この言葉は、人間にとって何が大切かを教えています。
知らなくてはなりません。水不足や環境の悪化が、今ある危機の原因ではないのです。
本当の原因は、私たちが目指してきた幸せの中身にあり、見直すべきは私たち自身の生き方なのです。
なぜ私たちは前よりももっと働くのか。
それは、もっと欲しくなって買ったバイクや車のローンなどを払い続けるからです。
気が付けば人生が終わっている。
これが人生のたどり着いた先なのです。
私が話していることは、とてもシンプルです。
社会が発展することが、幸福を損なうものであってはなりません。
発展とは、人間の幸せの味方でなくてはならない。
人と人とが幸せな関係を結ぶこと、子どもを育てること、友人を持つこと、地球上に愛があること―なぜなら、幸せこそが最も大切な宝だからです。
これを覚えておかなくてはなりません。
これで私の話は終わります。ありがとうございました。
6年生のほとんどは、ジーッと絵本を見つめ集中して聞いていた。
いつか、「幸せとは何かの答え」が心に発酵してくることを願う。
読み聞かせが終わって、黒板の大統領の顔写真を片付けるとき、前列の女子が小声ながら発したひと言・・・
「ムヒカ大統領が日本にもいればいいのに!」
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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