前回に続いて、浄土宗の渡辺海旭(かいぎょく)上人について。
彼は、宗教家・教育家・社会事業家で、ずば抜けてスケールの大きな人生であったが、「教育」について話す前に、触れておきたいことがある。
海旭校長の人柄を知ることができると思うからだ。
(芝中学校・高等学校HPより)
【給料が東京で一番高い校長】
海旭校長の給料は東京で一番高いといわれたが、なぜか。
実は・・・その俸給の多くは苦学生の授業料や寄宿料が滞ったとき、そのつど彼が全て立て替えていたからだ。
苦学生はそれを後から知り、海旭校長を心から尊敬するようになったという。
さて、芝中学校・海旭校長は、アッと驚く「卍=4L教育論」(前回参照)を用いて校訓「遵法自治」を説く。
【海旭校長の教育理念】
では、その校訓「遵法自治」ってなんだ?とふつうにききたくなるだろう。
今回の話しの前段階で大切なキーワードだ(早くも、ちょっと集中!)。
現在の芝中学・高校のHPに出ているが、一言でいうと(文責・私)・・・
「宇宙の真理に従って、自らを治めること」
さらに柔らかく言うと、
「自分で行うべきことを知り、やるべきことはやり、やってはいけないことはしない、そんな自助自発の人間をつくる」というもの。
【海旭校長の実際の行動】
教育では、
「叱ってしつけるスパルタ式」は下策。
「やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、ほめてやらねば人は動かじ」は上策。
さらにその上をいく上策があるという。
「何も言わずに、何もしてみせずに、じっと見守るだけでひたすら考えさせる。ことさらにほめもしない」。
エッ、それが上の上策?ホント、大丈夫か?
実際に海旭校長が行ったことは・・・
週に1回終身の授業をする。生来吃音(どもり)のうえなかなか理解できない。
私語をする生徒や吃音をまねて周囲の笑いをとる者もいる。
それでも校長は話しを粛々と進めていく。
すると不思議なことに、やがて教室は静まって、言葉が全員に染み渡っていく。
およそ「しつけるために怒る」という下の策をとることはしなかった。
ここで私が心を揺さぶられた2つめのエピソードに移ろう。
【一度だけ怒りを爆裂!】
ある時、カンニングがはやった。それを知った海旭校長は全生徒を講堂に集め、ひどく嘆き悲しみののしった。
「純真なるべき学生が、この破廉恥を良いと思っているのか!わからなければ天に問え!天帝に問い奉れ!」
最初で最後のことであった。首謀者はどうなったか?
【その後始末】
海旭校長は、首謀者の父親を呼んだ。そして話した言葉は・・・
「あなたの子どもにこんなことをさせて校長として申し訳ない」
と、涙にむせびながらわびたという。
海旭上人の葬儀には、会葬者が8,000人でうまったという。
この記事を書いた人

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長谷川戦略マーケティング研究所所長
1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。長野県信連勤務後、政策研究大学院大学で公共政策修士を取得。長野県や上田市で統一ブランドの創設や農産物マーケティングを推進。また、小学校PTA会長や地域活動にも積極的に取り組む。現在、中小企業診断士・公共政策修士として「長谷川戦略マーケティング研究所」を立ち上げ、企業や行政のマーケティング支援に従事している。落語鑑賞が趣味で、「上に立つより前に立つ」や「やってみなければ幸運にも巡りあえない」という言葉が好き。
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