当事者と共事者と区長

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【当事者と共事者】

私は、今年一年間、住んでいる坂城町S区の区長を担っている。

今年の主要な活動として、「区民の防災意識の醸成」がある。

一年が終わろうとしている今、取り組んだことを振り返ってみたくなったのは、ある本のなかで出会った「共事者」ということばに触発されたからだ。

その本とは、東京大学准教授でマルクス研究者の斉藤幸平さん近著「ぼくはウ-バ-で捻挫し、山でシカと戦い、水俣で泣いた」である。

著者は、晩年のマルクスの到達点が脱成長コミュニズムである、という斬新な視点の著書で注目されている35歳の気鋭学者。

この本の中に、福島県いわき市在住の地域活動家・小松理虔(りけん)さんが主張されている「共事者」の話が出てくる。ざっくりいうと、こんな文章の中の言葉だ。

「東日本大震災の際に福島で起きた原発事故は、当事者でなければ語れないという暗黙の了解が世間にある。

しかし当事者のみに限定してしまえば、大多数の人は考えることもしなくなりやがて忘れ去られる。

そこで、非当事者だが関心はある人たちを『共事者』と呼び、どんな動機でもいいから福島について思いを馳せ、考えてもらいたい。」

確かに、広島・長崎の原爆体験者や水俣病患者などの被害者は、「当事者」として強烈な思いがあろう。

しかし、歳を重ね体験者が少なくなっていくに従って、周りの関心も薄れていくのは否めない。

「当事者」と「共事者」がどうつながりながら問題に向き合っていくかが問われているのは確かだ。

ついでに、小松理虔さんの著書「新復興論」にはこんなフレーズが出てくる。

「現場にこそ批評がなければいけないし、思想を持たねば地域は死んでしまう」

「市長も市議も区長も、地域に関わる決断をする人や企業のリーダーこそ圧倒的に外部を受け入れ、思想を持たねばいけない。そもそも、それがリーダーの仕事ではないか」

なかなか胸に刺さる強烈な言葉だ。

これらの言葉に出会い、私が振り返ったのは、S区における防災意識の醸成は、S区区民が当事者意識を持ってどれだけ取り組めたか、である。

【そもそも当事者意識がない】
当事者とは、辞書で調べると「起きている事柄に直接関係している人」とある。

福島・広島・長崎・水俣等で「起きた大変な事柄」に直接関係した当事者は、被害者としての立ち位置がはっきりしている

一方、坂城町のS区は、災害といえば台風19号で少し緊張したけどさほどではなかった。

防災に対する認識が高まらないのは、大きな「起きている事柄」がなく、災害を予想し被害者(=当事者)を想定することが難しいからではないか。

町で防災訓練をしていても、恒例化してしまっていて、なかなか緊張感の維持は難しい。

ならばと、S区は土砂災害警戒区域であり、浸水想定区域でもあることから、今後災害の当事者になりうることを意識してもらう取り組みを考え、試みた

【コロナ禍のなか、当事者意識を持ってもらう取り組みとは】
まず必要なことは、「この地を知ること」である。

その手がかりはS区の「字」にあると考えた。

「字」とは、「大字」より小さな集落の範囲につけられた地名で、自然災害や地形地質に由来したものが少なからずあり、防災面からも参考になる。

ならばマップを作って、そこに用水や水門を書き入れてみよう。

また、この区の歴史を知るため道祖神や神社・寺・公園等も書き入れ子どもたちの学習にも役立つようなマップを目指した。

試行錯誤の結果、A3版の表裏二つ折り、計4面の構成で、できる限りシンプルにした。

マップをパソコンで作る技術は無いので、つながっている大学生たちに関わってもらおうと手を尽くしたがコロナ禍でうまくいかず、一人で作ることに。

パソコンで作図するのに大変苦労したが(苦手)、何とか試作品ができ区会等で意見をもらい完成(ヘトヘト)。

【区長の役割】
さて、マップを利用して区民の防災意識を高めるシナリオとは・・・

ズバリ、S区内をマップを手に歩きながら巡るイベント「防災&魅力発見」ウォーキングの実施である。

参加者は、小学生児童とPTA役員を中心に、サポート役として育成会、区会議員や各団体長らで約40人が今回のイベントの「当事者」である。

区長は、イベントを企画し関係者に説明して参加を募り、全体を動かすプロデューサー役とでもいえようか。

【当事者意識はコミュニケーションから】
そして、私は区長として意識的に仕掛けたことがある。

まずスタート時の挨拶で、「コロナ禍で皆さんいつもマスクを着けていて、区長さんの顔も見たことがないと思います。

そこで、おかしな顔ですが一瞬マスクを外します」と言って、顔をオープンにすると、ドッと笑い声が響いた。

ヨシッ(私は絶えず前向きに捉える)、さらに続けて大人の皆さんを紹介し、年長の団体長等の方々は前に出てもらい名前も紹介した。

10歳以下~70歳代後半までの当事者としての緩やかな幅広い「共同体」を一時でも創りたかったのである。

ウォーキングコースは山道を含む約3㎞。2グループに分かれて、マップを手に解説しながら巡り、予定通り終着点のお寺に到着。

最後は、児童に参加賞のお菓子ジュースを配り無事終了となった。

このウォーキングで大切だと思ったことは、いたるところで大人と児童の会話がありコミュニケーションが深まったこと(たとえマスク越しではあっても)、親子で一緒に学習できたことだ

参加後の感想のいくつかを紹介しよう。

【参加後の主な感想】
(PTA保護者)
・S区に住んで十数年、字の名前や由来など知らないことばかりで勉強になった。

・S区の歴史を子どもたちと一緒に勉強できてよかった。将来、子どもが生まれ育った土地について思い出せれば良いなと思った。

・用水路の位置を知ったり、地形からも防災について考えるきっかけになりました。

・水害時の避難する道順を知れてよかった。

(児童)
・疲れたけど、S区の知らなかった歴史を知れて勉強になった。

・登校班でいつも歩いていたけど、知らないことばかりだった。

・たくさんお菓子をもらえて、一生懸命歩いたかいがあって嬉しかった。(←意図したとおりの反応・・笑)

【当事者としての共同体】
当事者意識を持つには「この地を知ること」と前に書いた。そのきっかけにはなったかなと思う。

今回実施したウォーキングイベントの当事者として、40人ほどが確かに存在している。

当日、地元のUCV(上田ケーブルビジョン)の取材を受け放映された。DVDでその映像も保存している。

今後、マップを全区民や区内の企業に配付し、地元小学校にもPDFにて提供することになっている。

徐々に当事者範囲を広げる機会を設け、確かな共同体として想定される災害時に備えたい

願わくば、その先にS区の花火大会や神楽の獅子舞を見たいと外からの「共事者」が現われれば、持続可能な地区になっていくにちがいない

思想などはなから持ち合わせていない私だが、できる限りのお手伝いをこれからもさせてもらうつもりだ。

この記事を書いた人

長谷川 正之
アグリフードビジネスアドバイザー

□1955年生まれ、長野県埴科郡坂城町出身。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、長男としての責任を感じ故郷・長野県の農林系金融機関に就職。在職中は、融資や資金証券運用業務ほかに携わる一方、企画業務では「中小企業診断士」の資格を活かし経営戦略(経営理念の策定含め)を立案し事業展開を図る。54歳時に、「上司の顔より真理の顔を」という言葉に出会い、「ソロで力量を磨き、パーティーを組んで更に高い目標に挑戦していく!」意識を自覚。思い切って選択定年で退職。
□55歳で一念発起し、政策研究大学院大学政策研究科まちづくりプログラム(修士課程)に学び、ダントツの高齢者ではあったが無事「公共政策修士」を取得。 
□56歳で長野県庁の民間登用試験を受け、任期付職員として採用(課長級:農政部農産物マーケティング室企画幹)。県農畜産物の統一ブランド「おいしい信州ふーど(風土)」を玉村豊男氏と共に創設し普及。6次産業化推進や「信州ワインバレー構想」策定等にも関わり、任期満了につき退職。
□61歳で上田市農林部農産物マーケティング推進室・専門員に採用。「発酵で輝く上田のまちづくり」を提唱し、民間の「信州上田・発酵の女学校」等の設立を支援。上田市の統一ブランド「信州上田なないろ農産物」を創設し、地産地消を強力に推進。講演では「尊農上位論」を熱く説く。現在、ながの農協非常勤監事も務める。
□地域活動として、地元小学校PTA会長、さらに当時の小学校連続殺傷事件発生に際し地域で自主防衛すべく歴代PTA正副会長会(ビーナス会)を組織し現在会長。「地域の子どもは地域で育てる」を合い言葉に実践中。春・夏休みには、町内児童館で本の読み聞かせを楽しく行っている。
1995年阪神淡路大震災時には、友人の落語家や中学同級生たちといち早く復興支援寄席を開催。以降、高齢者福祉につながればと坂城寄席を継続開催中(現在休演)。地区の自治活動にも積極的に関わり、来年は区長を担う。コロナ禍や自然災害多発のなか、自治会(区会)が自治体(町行政)を構成する確かな「共同体」の仕組みを作りたいと意欲を持つ。
今後、「中小企業診断士」「公共政策修士」の知識・経験を活かし、さらに地域に貢献したいと前を見すえる。紆余曲折の人生のなかで培った多彩な人脈が自らの強み。
□趣味は落語鑑賞。好きな言葉として 「上に立つより前に立つ」 「スピードが感動を呼ぶ!」「笑いで輪(和)来!」「他人の言葉を気にして生きるには人生は短すぎる!」。
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